大河内先生に問い詰められて、なんかピンチみたいな私達!
この状況、カイちゃんはどうやって切り抜けるのか!?
あ、さっきから私、他人事みたいに言ってるけど、全然そんな事ないでーす!
私もすっごく緊張しっぱなしで、全く身動き出来ませーん!
なんて役立たずなんだ、私は!
「ええ、アタシと白狐ちゃんは、大河内先生の言う通り、山岸海良、尾藤白狐本人で間違いありません。」
いつになく毅然とした態度で、そう言ってのけるカイちゃん。
通常私は、私と一緒にいる時のカイちゃんしか見る機会がない。
その時のカイちゃんは私にデレデレで、どうにもだらしない感じが拭えないカイちゃんだ。
だけど、今のカイちゃんは違う。
明らかに違う!
私がいない時に出している、長年に渡る社会人生活によって培われてきた〝だらしなくない〟カイちゃんだ!
私も実は以前に何度か見た事あるけど、こうなった時のカイちゃんはもう無敵だ。
どんなに屈強な猛者よりも頼りになる!
…と思いたい!
「ですが、先ほども申し上げました通り、貴女方は90年前の在学中から全く見た目が変わっていない。
この点については、どう説明なさるおつもりで?」
ですよねー!
やっぱ気になるよねー!
ってかカイちゃん、私達が本人って認めちゃったけどさ、実際の所どうやって言い訳するつもりなんだ?
まさか、不変力の事をバラすつもりなんじゃ…!?
いや、そんな馬鹿な。
カイちゃんに限って、そんな私を裏切るような真似、する筈がなかろう。
「…………エステです。」
「はい?」
「だから、エステです。
もんのすごぉぉく腕の良いエステティシャンの方がアタシの知り合いにいまして、その人に若返りに非常に効果的なエステを施して貰ったんです。
いわゆる、アンチエイジングってやつです。」
……えぇーーッ!?
いやいやいやいや、そいつぁ無理があり過ぎるでしょ!
90年若返って美少女JKと幼女になるエステなんて、もはやファンタジーの領域だぞ!
いやまあ、不変力を手にしている私が言うのもなんだけど!
カイちゃんの苦し過ぎる言い訳を聞いて、私も大河内先生も絶句していた。
そんな中、大河内先生は頑張って言葉を捻り出し、剥き出しの矛盾を指摘する。
「そ、そんなのあり得ないでしょう!詭弁にも限度があります!
そんなエステがあるのなら、ワタクシがいの一番に通っていますからッ!」
大河内先生、なんか必死だ。
そりゃあ、そんなベニクラゲめいた馬鹿げた若返り技術があるなら、女性ならば特に興味を示すってもんだろう。
しかし残念ながら、不変力の存在は私達以外にはシークレットなのだ。
「…でも、本当にエステなんです。」
「いやだからッ!」
「エステなんです。」
「……うッ!?」
笑顔の圧力。
そう呼ぶべきであろう謎のプレッシャーが、カイちゃんの全身から放たれている。
それに怯んだ大河内先生は、それ以上の追求をやめてしまった。
流石、人生経験豊富なだけはある。
見た目は確かに私達の方が若いけど、実際にはこっちの方が大河内先生の倍近く生きてるんだ。
あれくらいのプレッシャーをかけるくらい、造作もないのだ。
人生スッカスカな私には無理だけど。
あと、カイちゃん怖いわ。
「…分かりました、ワタクシも少し冷静さを欠いていたようですし、これ以上詮索するのはやめておきます。
貴女方はお客人ですから、失礼に当たりますしね。」
「そういう事です。
アタシ達は母校の見学に来ただけで、大河内先生とお話をしに来た訳ではありませんから。」
わお、カイちゃんもしかしてちょっと怒ってる?
「…ええ、本当に失礼しました。
どうぞ、ごゆるりと校内を見学なさって下さい。
」
ベテラン教師であろう大河内先生を、こうも簡単に萎縮させてしまうとは。
カイちゃん、今まで私の知らないところで、どれだけ修羅場を潜ってきたんだ。
◆◆
「うわー、懐かしー!
この教卓の角の傷、白狐ちゃんが転んで付けちゃった傷だよー!」
「いや、よくそんな細かいもん覚えてるな!
私は全然覚えてないんだけど!」
「えへへ〜、白狐ちゃんに関する記憶は一欠片も漏らさず、アタシの脳内に刻み込まれているのです!」
「怖いわ。」
私達は今、一年生の頃に通っていた教室にいる。
学校の中は、殆ど私達が通っていた当時のままだ。
卒業から90年も経過しているというのに、何故そっくりそのまま残っているのか。
理由は簡単、私が以前地元の町を不変にした際に、この学校もその範囲内だったからだ。
不変にしたのは卒業してから20年ちょい経ったくらいのタイミングだったけど、その間には特に改装や改築などは行われていなかったようで、お陰で姿を変える事なく我らが母校は残ってたってわけ。
本当に当時と変わらないから、まるでタイムスリップでもしたかのような感覚に陥る。
「高校時代なんて、たったの3年間。
普通の人間でさえ短い期間で、今後永遠に生きる私達にとったらほんの豆粒みたいに僅かな時間なのに、物凄く濃密に感じるのは何故だろうか。」
「うんうん、分かるー!
やっぱり高校生っていうのは、人生の中でもとりわけ特別な期間なんだよ。」
私のJK時代。
きっと、カイちゃんとの出会いが無かったら、淡白で味気の無い3年間になっていたのかもしれない。
この子と友達になれたからこそ、野茂咲さんや新藤君のような友人も出来たし、それまで億劫なだけだった学校行事も楽しめるようになったのだ。
「カイちゃんのお陰で、JKだった頃の私は救われたのかもな。
そこのところは、一応感謝しとくよ。」
噛み締めるような感じで、私は素直な気持ちをカイちゃん本人に伝える。
ちょっと恥ずかしいけどさ。
「……白狐ちゃんが、こんなに素直になってくれるなんて!」
「もう、茶化さないでよ。」
「ごめんごめん。
でも、アタシとの出会いが白狐ちゃんにとってプラスになってるのなら、友達冥利に尽きるってやつだよ!
そろそろランクアップして、恋人になりたいなー、なんて。」
「ハハ、フライングは駄目だからな。」
「そうだね、もう少しだもんね!」
もう少し。
そうか、もう少しなんだもんなぁ。
カイちゃんを恋人として迎え入れるその日まで、猶予はあと少しか。
「ま、今はそれよりも次の場所行こう。
私的には図書室行きたいな、図書室。」
「図書室?」
「うん、ちょくちょく行ってて、お世話になってたし。」
「そっか、じゃあ行こう!」
よし、上手く話を逸らせた。
けど、こんな風に100年目の事から目を逸らし続けて、私は大丈夫なのだろうか?
まあ、なんとかなるだろう。
私の答えは、ほぼ決まってるようなものなんだから。
◆◆
私とカイちゃんは、図書室へとやって来た。
やはりここも例に漏れず当時と変わっていない。
立ち並ぶ本棚と受付、シンプルによくある感じの図書室だ。
「図書室懐かしいなぁ!」
「白狐ちゃんと、たまに勉強会してたよねー!」
「あぁ、そんな事もあったね。」
「あれは楽しかったなー!」
勉強会、ねぇ。
成績悪くて勉強が不得手な私にとっては苦手なイベントだったけど、当時からカイちゃんと一緒に何かする事自体は悪くはなかったと感じていたのは記憶している。
「うん、カイちゃん補正で楽しかったよ。
今となっては、良い思い出だ。」
「じゃあ、久しぶりに勉強会する?」
「…今更何を勉強するのさ?」
「そりゃあ、色々だよ!
学校を卒業したって、学ぶべき事は山ほどあるんだから!
テーマはアタシが考えとくから、今度お勉強しよ?」
「んー、考えとく。」
本来なら勉強会なんて御免だよ。
しかも、この年になって。
でも確かに、人間いくつになっても勉強する事は無限にあるんだろうな。
そう考えると、カイちゃんの提案に乗ってみるのも悪くないんじゃないかな。
それにやっぱ、カイちゃんと一緒ならなんだかんだで楽しくなりそうだし。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの血液型は?
「A型。まあ、普通でしょ。」
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