月曜日、今日は仕事が休みで清水さんを地元の駅前で待っている。
なぜ私が清水さを駅前で待っているのかと言うと、それは一昨日の夜に遡る。
「清水さんってこっちに来てまだ一ヶ月くらいですよね? 生活用品とかもう揃ってるんですか?」
山口君がサラダを小皿に取り分けながら清水さんに聞いた。
今日は、お店の営業終了後に朝方までやっている居酒屋で清水さんの歓迎会をしている。
「ある程度の物は買いましたけど、まだ完全には揃ってなくて。でも、冷蔵庫とか洗濯機はネットで注文して届けてもらったので、そういうのは揃いましたよ。」
清水さんはお礼を言いながら小皿に取り分けられたサラダを山口君から受け取る。
「でも、この辺の事とか分からないですよね? どこで食材買ったりとか、服を買ったりとか。」
「そうですね。こっちに来て採用して頂いてからは、お金を稼ぐためにシフトにも沢山入れて頂いたので、まだあまり見て回れてないんですよ。」
山口君は相槌を打ちながら、高橋さんにもサラダを渡す。
「清水さん、私が代わりに出てあげるから連休取って見て回ったらいいんじゃない? ね、店長?」
高橋さんは甘そうなカクテルを持ちながら私に話を振る。
「まぁ、清水さんが希望するならもちろん連休取るけど、高橋さんが案内してあげれば良いんじゃないか? その分、俺と山口君、木村君だって頑張るよな?」
と、私は答えた。
以前、高橋さんが清水さんに対し強く当たっているのを見ていたこともあり、休みの日に一緒に出掛けて仲良くなればと思っての提案だったが、
「えぇ? 私が案内しても良いですけど清水さんが休むなら私が代わりに出ますって。こいつらだけじゃお店が心配ですし」
と言って、遠回しに断られてしまった。
じゃあ俺が連れてってあげようかと、ビールを飲んでいた田山さんが割って入ったが、田山さんは怪しいからダメですと山口君がすぐさま却下し、山口君は田山さんに頭を叩かれていた。
清水さんはあまりお酒を飲めないのか、少しずつお酒を口に運びながらその様子を微笑みながら見ている。
「ところでさ、俺気になってることがあるんですけど、聞いて良いですか?」
山口君は飲みかけのレモンサワーを一気に飲み干すと、清水さんに問いかけた。
「……気になる事ですか? 良いですよ?」
清水さんはきょとんとした表情で答えると、山口君はニコニコしながら、
「清水さんって、彼氏いるんですか?」
木村君は俺も気になると話に乗り、高橋さんもまんざらではない表情で清水さんを見ていた。
清水さんは少し間をあけて、
「……彼氏はいないです。いたら、一人でこっちに来るなんてことしないですよ」
と作り笑顔とも見れる表情で答えた。
男性陣は、おぉ! と声を上げたが高橋さんは、
「なぁんだ。彼氏いてもおかしくない見た目はしてるのに、残念」
と、つまらなそうに頬杖をついていた。
私は内心、清水さんに彼氏がいないと知って少し安心してしまった。
別に、彼氏がいないから付き合えるとかそういう話ではないのに。
私はそんなことを思っていると、ふと清水さんと目が合ってしまった。
何故だろう、少し胸が痛んだ。
清水さんは私から目を逸らすと、皆を見た後、私も質問しても良いですか? と言った。
私は目が合った事もあり、いいよと答えると、清水さんは少し微笑み、
「皆さんは、付き合ってる人いるんですか?」
と聞いた。
この質問に男性陣は嬉しそうに、いませんと答えた。
私はその様子を見ていて黙っていたが、それを見た山口君が、
「店長も、仕事一筋だから彼女は勿論いません!」
と代弁し、笑いが起きた。
しかしその時、清水さんが私の方をじっと見ていたのは、多分、私しか知らない。
歓迎会は3時間ほどで終わり、それぞれが帰路に就いた。
私は清水さんに、
「俺が出すから今日はタクシーで帰った方が良いよ。タクシー捕まえてあげるから」
と言って、近くのタクシーを呼ぼうとした。
清水さんは、大丈夫ですと言ったが、深夜3時にお酒を飲んだ女性を一人歩かせる訳にもいかない。
近くのタクシーに声を掛け清水さんを手招きすると、清水さんは小走りに駆け寄り私に、
「……店長は、彼女、本当にいないんですか?」
と聞いた。
また、少し胸が痛んだのは気のせいにし、
「俺はずっと仕事ばかりだったからね。彼女はいないよ」
と答えた。
清水さんは少し俯きながら、
「……して欲しいです」
「え?」
「……迷惑じゃなきゃ、店長にこの辺の案内をしてほしいです」
とつぶやいた。
私は、思わず清水さんを抱きしめたくなった。
清水さんに対し好きという感情が芽生えているのか、お酒が入っているからなのか分からない。
しかし、私を襲った衝動を抑えながら、
「……じゃあ、明後日二人とも休みだったよな? 明後日、ちょっと出かけるか?」
と答えた。
清水さんは少し嬉しそうな顔をし、はい。と答えた。
私は清水さんをタクシーに乗せ、歩いてアパートへ向かった。
少し、歩き方がおかしいのか、すれ違う人が私を見て笑っていた。
お酒も大分回っているな。
夜なのに世界が明るく見えた。
私はアパートに着くと着ていた服をその場に脱ぎ捨て、仕事に対する気持ちを忘れ久しぶりに恋に似た気持ちを覚えながら、シャワーを浴びた。
そして今、私は清水さんを地元の駅前で待っている。
スタッフの生活のため、店長としての責務を果たすだけだと自分に言い聞かせ、清水さんの到着を待っていた。
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