未だに震え続けている。
何時間、あの雨の中に居たのだろうか。
自宅に戻った私は、タオルに包んだ動物をストーブの前に置いてあげた。
毛は汚れて、雨でペッタリと張り付いている。
少しだけ温めた、ぬるめのミルクを近くにそっと置いた。
私はコートも脱がずに考えた。
――犬よね?
それも子犬。
犬種はなんだろう。
柴犬とか?
持ってきたタオルで頭を優しく拭く。
大丈夫かしら...。
動物病院を探して、今から診てもらえるか電話してみようかな...。
すると、その動物が微かに目を開けた。
――あ!
しばらく私を見つめていたが、その後驚いたように飛び上がった。
「わっ...!」
こっちもいきなり飛び上がった動物にビックリしてよろめく。
体制を整えて辺りを見回すと、こちらに向かって威嚇している姿が見えた。
「だ...大丈夫よ。」
恐る恐る手を伸ばす。
その時、ハタッと気づいた。
こ、これって...、キツネじゃない!?
昔テレビで見た野生動物のドキュメンタリー映像を思い出した。
きっと、間違いない。
動物園でも見たことあるし...。
ミルクに手を伸ばし、威嚇し続けるこぎつねの方に近づけた。
「...ほら、」
差し出されたミルクを一瞬見たが、警戒を解かずに私を見ている。
「何もしないから。」
その狐の目は、まるで何かを考えているようだった。
...。
暫くするとヨロヨロした足取りで進み、身を屈めてミルクを飲んだ。
ホッと一安心する。
何か口に入れてくれて良かった。
しばらくして満足したのか、こぎつねは顔を上げる。
そして私の瞳を見据えたまま、ゆっくりと近づいて来た。
少し手前でぴたりと止まり、それ以上動こうとしなかった。
...撫でてみて、大丈夫かな...、
ゆっくりと、手を伸ばす。
...こぎつねは顔を傾け、私の手に擦り寄った。
嬉しくて笑うと、こぎつねを纏う空気も柔らかくなったような気がした。
「――にしても。」
私はこぎつねを上から下までじっくり眺めた。
...汚れすぎ。
「おいで、洗ってあげるから。」
そう言うと、まるで言葉が理解出来たかのようについてくる。
お風呂で洗ってあげると、暴れず大人しいものだった。
濡れた毛をドライヤーで乾かすと、毛並みの綺麗な狐へと戻る。
“どこから来たの”と聞きたかったが目の前にいる相手は人間じゃなく、狐だ。
口が利けるわけがない。
迷子かな。
でもキツネの迷子なんて、聞いたことない。
...これから、どうしよう。
「あ!」
時計を見て思わず声をあげた。
もうすぐ、12時。
「早く寝ないと!」
明日は少し早めに出社しなくちゃいけないんだった。
今日作った資料の最終確認がある。
――そうだ
振り返ると、フワフワになったこぎつねがちょこんと座っている。
「寝床...」
どこに寝させよう。
...一緒に寝れるかな。
ベッドに座って隣をぽんぽんと叩いて
「おいで」
と呼び掛けた。
すると、こぎつねはゆっくりと近づいてベッドにジャンプする。
...だいぶ慣れたみたい。
でも、なぜか俯いたまま動かない。
しょうがないから、抱き上げて布団のなかに入れてあげる。
「――おやすみ、」
私の言葉に反応し、こぎつねが見上げる。
頭を撫でてあげるとくすぐったそうに目をつぶった。
◇狐◇End ...続く。
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