優しい異世界に行った話

〜ねずみたちとの、まったりスローライフ〜
戸田 猫丸
戸田 猫丸

第4話

公開日時: 2021年9月9日(木) 17:25
文字数:2,116

 

 ぼくは、深く掘られた穴の中へ慎重に慎重に降りていった。ぼくの背の何倍もある山芋が、天高くそびえ立っている。

 おじいさんと、トーマスくん、そしてぼくで、最後の仕上げをするみたいだ。



「さあ、もう少しだ。いいかい? 山芋はもろいから、折らないように掘っていくんじゃよ。トム、マサシくん、ゆっくり、ゆっくりね」



 みんなが見守る中、ぼくとトーマスくんはおじいさんの手つきを見ながら慎重に慎重に掘っていく。丁寧で、それでいて速くスムーズなスコップさばきだ。ぼくは、焦らずゆっくりやるんだと自身に言い聞かせ、少しずつ少しずつ掘って行った。根から無数に生えたひげが、顔をくすぐる。砂が目に入る。それでも負けずに何とか、山芋の先端まで掘り起こすことができた。



「ふう、こんな感じでどうですか?」


「お! 上手いねえマサシくん。きれいに掘れたよ」


「やったあ! ……ほんとに大きな山芋ですね」



 とうとう現れた、山芋の全貌。今のぼくの身長の5~6倍はある、モンスター山芋だ。

 芋掘り、難しかったけどとても楽しかった。芋掘り名手のおじいさんは疲れた顔を一つも見せず、掘り上げた山芋を見つめている。もう何年も何年も、掘り続けてきたんだろうなあ。



「いやあ、大物が掘れたぞい。今までで一番かもなあ。さ、みんなで地上まで引っ張りあげようかの」


「そうだね。さあ、またみんなで力を合わせようね!」



 トーマスくんは掘りあげたやまいものてっぺんに、ロープをしっかりとくくりつけた。どうやらみんな一緒にロープを引っ張り、山芋を地面に引っ張り上げるようだ。



「準備できたよー!」


「よし、じゃあみんなで、最後の仕事だ!」



 おじいさんとぼくは、深く掘った穴から地上にはい上がった。すぐにトーマスくんが山芋の先に引っ掛けたロープを、真っ直ぐに伸ばしていく。



「みんないくよー。山芋と綱引き合戦だ!」



 おとうさんとミックさんは、ぼくらに代わって穴に入り、下から山芋を支える。残りのねずみたちとぼくでロープを引っ張り、モンスター山芋を地上に引き上げるんだ。



「せーのっ! よいしょーっ! よいしょーっ!」



 巨大な山芋が、少しずつ少しずつ、地上へと引っ張り上げられていく。



「がんばれ、がんばれ」


「よいしょー! よいしょーっ!」



 みんなで息を合わせれば、モンスター山芋との綱引き勝負に勝てるんだ。重くて手強いけれど、みんながんばれ、がんばれ!



「よい……しょ!」



 おとうさんとミックさんの最後の一押しで、とうとうモンスター山芋を地上に掘り上げることができた。



「やった! やったあー!」



 横たわる巨大な山芋の周りに、みんな駆け寄る。



「うわー、でっかいなー」


「すごいね。間違いなく、今までで1番の大物だよ」



 大地の恵みを受けて、時間をかけて、大きく大きく育った山芋。大自然の力の凄さを、改めて感じた。

 みんなどろんこ。みんな汗びっしょり。



「みんな、お疲れ様。マサシくん、ミックさんも、ありがとう。さあ、一休み一休み。お茶にしましょ」



 おばあさんは水筒のお茶を紙コップに注ぎ、1匹ずつ手渡していった。みんなで1つのことをやり遂げた後の充実感をかみしめながら、ぼくはよく冷えたお茶で喉を潤す。

 ぼくはもうくたくただけど、チップくんとナッちゃんはまだはしゃいでる。本当に疲れ知らずな子供たちだ。



「おじさんもありがとうね。今晩一緒に食べようね」


「こちらこそありがとう。次回の〝まなびや〟での勉強会は、今日の芋掘りをテーマにしようかな」


「いいねいいね! さあ、山芋をお家まで運ぼっか」



 ぼくらは、掘った穴を元通りに埋めた後、持ってきた5本の竹竿に、山芋をしっかりとくくりつけた。



「よおし、みんなでかついで、家まで運ぶぞー!」


「せえーの! わっしょい、わっしょい!」



 おじいさん、おとうさん、トーマスくん、ミックおじさん、そしてぼくで、山芋神輿みこしをかつぎ、掛け声を合わせる。

 おばあさん、モモちゃん、チップくん、ナッちゃんは、たくさんのむかごを入れたカゴをかつぎ、後からぼくらを追う。ミライくんは、おかあさんの背中でぐっすり眠っていた。



「うんせ、うんせ。ほら、あと一息がんばれば、おいしい山芋が食べられるから、がんばれ、がんばれ」



 秋の美しい林は、真っ赤に染まった葉をざわつかせながら、どろんこになったぼくらを見送ってくれた。



 ♢



「たあだいまあー!」



 ぼくらはみんなどろんこの汗びっしょりになり、帰ってきた。さっそく山芋を、裏口から台所へ運ぶ。



「おつかれさま。ひとまず、お風呂にしましょ」


「さんせーい!」



 いつものように手分けしてお風呂を沸かし、どろんこになった服を洗濯カゴの中に突っ込み、みんなでお風呂に入る。

 ザバァーーッ! と、ぼくは思い切りお湯をかぶった。汗だくになった体が、一気に洗い流されていく。



「ミックおじさんのとこの施設、岩盤浴あるじゃん! 今度行かせてよ」


「いいでしょー。いつでもみんなで来て」



 ミックさんも一緒にお湯に浸かりながら、みんなで20数える。体を温めながら、外から流れ込む夕方の空気を思い切り吸うと、疲れがじんわり癒やされてくる。



「じゅうく、にじゅう! よし、あがろう。おかあさんたちと交代だ!」



 熱いお湯でさっぱりしたぼくらは、一足先に山芋料理作りに取り掛かった。

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