「とろろごはんと、山芋のおみそ汁、山芋の千切り、みんなで作ろう!」
「これだけ大きな山芋だもんね。色々作れちゃうよね」
山芋を少し切ってみると、シャリッと音がして白くてネバネバした断面が見えた。さあ、これがどんな料理に仕上がるのだろう。ぼくらは手分けして、山芋料理を作り始めた。
おじいさん、トーマスくん、ミックさんは、山芋のおみそ汁を担当。クツクツ音を立てるすまし汁の中に切った山芋を放り込む。
おとうさん、チップくん、ミライくん、そしてぼくは、とろろごはん組。すりこぎを使い、交代で山芋をすりつぶしていく。
「マサシおにいちゃーん、いっしょにやろー!」
「わかった。せーのっ」
ぼくはゆっくり、ミライくんの力加減に合わせて、グリグリと山芋を時計回りに回していく。チップくんが時々お出汁を入れてくれている。すりつぶされた山芋は、だんだんとお餅のような姿になっていく。
「おもしろーい! よくのびるね」
「おいしそうだね。ミライくん、じょうずだね」
おみそ汁のいい匂いがしてきた。様子を見に行くと、千切りにした山芋が鍋の中で踊っている。
台所が美味しそうな匂いが満たされた頃、おかあさんたちがお風呂から出てきた。
「お待たせ。私たちは、山芋の千切りを手伝えばいいのね。まだこんなにたくさんあるわ」
「よろしくね。切ったら、おみそ汁の中に放り込んで」
おばあさん、おかあさん、モモちゃん、ナッちゃんも加わり、トントンとやまいもを切っていく。全員揃って力を合わせたら、あっという間に数々の山芋料理が出来上がった。
「わああ、おいしそうー! さ、マサシ兄ちゃんもミックおじさんも、みんなで一緒に食べよう!」
「大きな山芋だから、まだまだ何日分も残ってるね。いやあ、大収穫だったね」
「それじゃ、みんなお疲れ様でした。手を合わせて、いただきまーす!」
「いただきまーす!」
ふっくらと炊けたごはんの上に、モチモチのとろろ芋を乗せる。あつあつの湯気と一緒に、美味しそうな匂いが部屋を満たしていく。
一口、食べてみると――口の中でとろけて、何日もかけて育った山芋の命の味が、ほんのり広がっていく。とても美味しい。
「おいしーい‼︎」
「おいしいでしょ? たくさんおかわりしてね、マサシ兄ちゃん!」
千切りの漬物も、つまんでみる。……シャキシャキして食べ応えがあり、ほんのり塩味が口の中に広がる。おみそ汁は……いい具合にとろみがついていて、飲み込むと体がポカポカ温まった。
「おいしいわね。今年の芋掘りは、いちだんと楽しかったわね」
「そうじゃのう。マサシくんも、気に入ってくれて良かったよ」
食いしん坊トーマスくん、次から次へと山芋料理をつまんでいく。
「おみそ汁おかわり、いい?」
「あはは、トム、相変わらずよく食べるねえ」
「じゃああたしもおかわり!」
「僕もー!」
「あ、ぼくも、もっと食べたいんだけど……」
ぼーっとしてたら、ぼくの分がなくなっちゃう。
「ふふ、まだたっぷりあるから、ゆっくり食べていいわよ」
「なんだ、よかった。じゃあゆっくり味わせていただきます」
みんなで食べ物を採ってきて、みんなで作って、近所のみんなと分かち合う——とても温もりのある、ねずみたちのコミュニティだ。
「ごおちそうさまあー!」
「じゃあ、また今度ね、ミックおじさん」
「ありがとうね。次回の勉強会はまた決まったらお知らせするねー!」
「あ、これおじさんのとこのぶんね。みんなで食べてね」
「わあ、こんなにたくさん、ありがとう!」
ミックさんはたくさんの山芋の入った袋を受け取ると、深々とお辞儀をした。ぼくはミックさんと握手をして、お礼を言った。
「ミックさん、ありがとうございました。また次回も、是非参加させてもらいます」
「ああ、マサシくんとの時間、とても楽しかったよ。またこれからも、よろしくね!」
チップくんとナッちゃんも、手を振る。ミックさんは満足気な笑顔で手を振り返し、帰って行った。
「次回も楽しみにしてるねー!」
「またねー!」
♢
後片付けが終わると、いつものごはんの後のお話タイムが始まる。
ぼくはチップくんと一緒に、おじいさんを呼びに行った。――ところが。
「おじいちゃーん! ……あれ? どうしたの?」
おじいさんは部屋で座り込んで腕を組みながら、何やら深刻そうな表情で考え事をしている。チップくんは、心配そうにおじいさんに話しかけた。
「ねえ、おじいちゃん、どうしたの?」
「うーん、何か、すごく大事なことを忘れてる気がしてのう……。思い出しそうで、思い出せない……。じゃが、思い出さなきゃいけない気がして、仕方ないんじゃよ」
やはり、今朝おじいさんが探していた物に関係することなんだろうか。ぼくも気になり、話しかける。
「おじいちゃんが朝探してた物、見つかったんですか……?」
「いや、まだ見つからないんじゃ……。わしが探している物は、わしらのご先祖様が残してくれた書物なんじゃよ。もし見つかれば、そこに、大事なことが全部書いてあるはずなんじゃ」
「この家にあるんですよね?」
「確かにあるはずなんじゃ。また後で探してみるよ」
——先祖が書いた書物? 何だか、ますます気になってきた。
溜め息をつきながら再び部屋の中を探し始めたおじいさんを見て、チップくんは心配そうな顔を浮かべた。
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