「今日はよろしくね、ミックさん。お昼ごはんをどうぞ。みんなで元気つけて、芋掘りがんばりましょ」
「うん、よろしくね。わああ、おいしそうだねえ……」
おかあさんは、今日も手作りのおにぎりを作ってくれていた。くるみ味。山菜味。梅味。他にもいろんな具のおにぎりが、庭のテーブルにずらりと並ぶ。
「おっきな山芋をみんなで掘ろう! 今日の夕ごはんは、みんなのがんばり次第じゃよ」
「そうだね! おじいちゃん、今年は今までで1番大きいのを狙おうよ!」
「ああ、任せておいて」
おじいさんは大張り切りだ。ぼくらの何倍もの大きさの山芋、一体どんなふうに掘るんだろう。
風が吹くと、カラフルに染まった木々がざわめいた。秋の山が呼んでいる。大地の恵みを受けて育った山芋が、ぼくらを待っている。
♢
「ごちそうさまー! さあ、片付けたらスコップと鍬を用意しなきゃね」
「水筒とおやつも忘れずにね!」
物置からスコップや鍬、ロープや竹竿などを出し、バッグには水筒、おやつ、そして着替えを詰め込む。きっと、泥だらけになってしまうだろう。あとは、絆創膏などが入っている救急箱も忘れずに。
「さあ、行くよ。みんなついてきてね」
「よろしくね、おじいちゃん! じゃあ、しゅっぱーつ!」
おじいさんを先頭に、9匹とミックさんとぼくは、オレンジ色に染まった秋の山道を歩いて行く。真っ赤なモミジの葉が、はらはらと舞い落ちてくる。チップくんとナッちゃんは、木の枝に登って遊びながら、みんなについて行く。
「上のほう、なんかあったー?」
「うん! マサシ兄ちゃんも来てみなよ! いい景色だよー!」
「え、登れるかなあ……」
ぼくは何とか木の上に登ることができ、チップくんたちと一緒に枝の上から、景色を見渡してみた。見上げれば一面の青空、その下にはオレンジ色の紅葉のじゅうたん。まさしく、絵に描いたような風景が広がっていた。
「わー! すごくいい景色だね。葉っぱが真っ赤だ」
「ね! とても綺麗だよね。さ、下に降りよう。おじいちゃんたちどんどん先に行っちゃう」
「あはは、そうだね。降りるのちょっと怖いや」
まだまだ、山芋のある場所へは遠い。おばあさんとモモちゃんは、道に咲いているせんぶりの花を摘んでいた。いい匂いがする。
「いやあ、結構遠いんですね。この辺りは他のねずみもあまり来なさそうだ」
ミックさんは汗を拭きながら、おじいさんに話しかけた。
「ほっほ、奥の方に毎年大物がね、いるんですよ。わしらだけが知っている秘密の場所なんですじゃ。今年もきっと大きな山芋があるはずですじゃ」
目を輝かせながらおじいさんはそう言った。果たしてどれくらいの大物が、ぼくらを待ち受けているのだろう。
黄色く輝く秋の山を、ぼくらはひたすら進んで行った。
♢
「あった、ここじゃ、ここじゃ。ひとまず休もう」
「ふうー! 長かったね!」
目的地に着いたようだ。地面から天に向かって細長いツタが伸びていて、おじいさんはそれに触れながらつぶやく。
「うんうん。これは大きいぞ」
触れただけで分かるなんて、さすがは名手。ぼくははやる気持ちを落ち着かせるため、近くの切り株に腰掛け、水筒の冷たい水をゴクリと飲み干した。
「見てみなよ。むかごがいっぱいなってるよ」
トーマスくんは枝の上の方を指差して言う。それを聞いたチップくんは、山芋のツタを伝って、上の方に登っていく。その直後、ドサッ! という音を立てて、何かが地面に落ちてきた。大きなむかごだ。
「うわっ!」
「マサシ兄ちゃんたちー! 拾ってカゴに入れてねー!」
「うん! ……むかご、でけえー……。って、ねずみサイズなんだから当たり前か」
ぼたぼたっと、たくさんのむかごが降ってくる。ぼくらはそれを拾い集め、他のみんなは、落ち葉をどかして、芋掘りの準備をする。
「さあっ、掘るよ!」
おとうさんの合図で、山芋掘りが始まった。
♢
まずはおじいさん、おとうさん、トーマスくんがスコップを持ち、掘り始める。少しずつ、山芋の頭が見えてきた。ナッちゃんが、スコップに乗って跳ねながら遊んでるのを横に、3匹はひたすら掘り続ける。
ぼくは待機しながらその様子を見ていた。スコップを上手く使うのには、コツが要りそうだ。目を凝らして、ぼくはおじいさんたちのスコップさばきをしっかり観察した。
「よおし、交代。マサシくんと、ミックおじさんの番ですよ」
「よしきた!」
ぼくは、おじいさんたちと同じようにスコップを動かし、少しずつ土を掘ってみた。——その時。
「うわあ‼︎」
突然、巨大なカブトムシの幼虫が土の中から出現した。ぼくはびっくりして、尻餅をついてしまった。カブトムシの幼虫はうねうねと体を動かしながら再び、土の中へと潜っていく。
「あはは、土の中にも生命がたくさんいるんだね」
「そうですね、虫さんたちをあまりびっくりさせないように掘らなきゃですね」
すぐにスコップを使うのに慣れたぼくは、ミックさんと力を合わせて、土を深く深く掘っていった。土と泥にまみれた大きな山芋は、深く掘るにつれ、どんどん太くなっていく。
「大きいなあ。まだまだ深く埋まってるよ」
早くもどろんこになったミックさんは、汗を拭いながらそう言った。ぼくらが想像してたものよりもずっとずっとずっと、でっかい山芋が埋まっているようだ。
「よおし、またおじいちゃんとトムに交代だ」
「よしきた!」
「さあ、そろそろ土を引っ張り上げる袋を用意しよう」
おとうさんは、土を入れる大きな袋にロープを通している。穴の上からロープを引っ張り、土を穴の外に出すようだ。
「おかあさん、モモ、チップ、マサシくんも! ロープを引っ張って土を出してー!」
「よしきた! そーれ!」
「そーれ!」
ぼくはチップくんと一緒に、ロープを引っ張った。なかなかの重さだ。汗がじんわりと服に滲んでくる。ドサっと音を立てて、1杯目の土を引っ張り上げた。
「ふう、これをあと何回も引っ張り上げるのか」
「そうだよ。みんなでがんばろうね、マサシ兄ちゃん!」
みんなどろんこになりながら、それぞれの役割を分担する。全身をここまでフルに動かしたのは久しぶりで、なかなかきつい。だけどそれ以上に楽しい。明日は筋肉痛確定だ。
「マサシくん、最後の仕上げじゃ。ここからが肝心なんじゃが、どうじゃ? チャレンジしてみるかの?」
「……はい! 是非やらせてください!」
最後の仕上げ、折らないように先端まで慎重に掘る作業だ。果たしてぼくは、この大事なステップを成功させることができるのだろうか。
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