見つけて頂いて、ありがとうございます(*´ω`*)猫丸と申します(´ω`*)
小さなねずみたちの世界を、どうぞお楽しみください……♪
「ただいまー……。はぁ……」
——夜の11時。
ライブハウスでのバイトを終え、疲れ果てて家に着いたぼくは、思わず溜息をついてしまった。
卒論作成、そして就活の日々。バイトもほぼ毎日あり、とにかく多忙だ。
それに加え最近のぼくは、ツイてないというか、やることなすこと全てが裏目に出てばっかりだった。
単位は足りずに、留年寸前。
就活では何十件も面接を受けるも、全く手応え無し。
最近チャレンジした作曲コンテストは、自信を持って応募したんだけど、まさかの予選落ち。
「出来ない奴は努力が足りない」
「他の人よりも勝っていなきゃいけない」
子供の頃に親や先生——周りの大人たちから、言われ続けてきた言葉。失敗して落ち込むたびに繰り返し言われ続けたことで、ぼくの心に、自己否定や努力の強要、競争は善といった厄介な価値観がこびりついてしまった。
努力不足な自分、他人に負けている自分……今回もそんなダメダメな自分がほとほとイヤになり、ぼくは半ば自暴自棄になってしまっていた。
♢
「マサシ、今回頑張ってたのに惜しかったよね……」
「惜しくなんかないさ。ダメなのは分かってた。どうせ僕なんか……、何をやったってダメな奴なんだから」
「ちょっと、そんな言い方ないんじゃない?」
「うるさいな。ぼくのことに構うな!」
慰めなんて、いらない。
どうせ、ぼくなんて、人から、社会から、世界から、必要とされてなんかないんだ。
腐り切ったぼくを見て、付き合ってた彼女からはとうとう愛想を尽かされ、別れを告げられてしまった。
「……じゃあね。もう連絡もしなくていいから」
「ちょっと待ってよ。ひどい言い方したのは謝るから、考え直してよ」
「ごめんね。そういうことじゃないの。マサシは最近あまりに何ていうか、ネガティブすぎて、一緒にいたら私まで辛いの……。やっぱりもう終わりにしたい。今までありがとう」
「待ってよ、一方的すぎるよ!」
失いたくないものまで失ってしまい、ぼくはますますヤケクソになってしまう。
誰に対してもわざと辛く当たるようになり、今まで仲が良かった人も、次々とぼくから離れていってしまった。
人間という生き物がすっかり苦手になってしまった。
自らの手でグチャグチャに踏み潰してしまった現実。悔やんでももう遅い。どうしたらいいかわからないまま、毎日はただただ過ぎ去って行く。
——いっそこのまま、楽になりたい。
生きている意味が分からない。
だけど、死ぬのは嫌だ。自ら死ぬことだけは、どうしてもしたくなかった。
じゃあどうすればいいのだろう。一体どうすれば、苦しまずに、辛い思いをせずに、毎日を生きていくことができるのだろうか。
優しい人ばかりが住んでる国は、どこかにないかなあ……。
毎日のんびり、何の心配もなく、自由気ままに暮らせる、そんな国は、ないかなあ。
もしあれば、永久にそこで暮らしたい。
もう、何もしたくない。誰にも会いたくない。
この面白くもない世界から、逃げたい。やだ、やだ、やだ。
♢
「……シャワー浴びて、寝るか」
ぼくはささっとぬるいシャワーを浴び、部屋着に着替えて自室に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。
視線の先には、絵本が並ぶ本棚がある。
「……ん?」
目に入った一冊の絵本。表紙に、1匹のねずみの子供の絵が描かれている。
ぼくが3歳ぐらいの時に、親によく読んでもらった絵本だ。表紙に描かれた、青いキャップをかぶったそのねずみの男の子が、無邪気な笑顔でぼくの方を見ているような気がした。
「絵本かあ……、懐かしいな。これでも読めば、現実逃避できたりするかな」
それは、小さな小さなねずみの家族が、自然いっぱいの森の中でのんびり生活をする様子が描かれた絵本だ。
ぼくが小さい時、ページの中に隠れている虫や草花、木の実を、隅々まで一生懸命に探した記憶がある。
青い空の下、無邪気に走り回るねずみの子供たち。ぼくにもそんな子供時代はあったんだけど、嫌なことなど忘れて、夢中で友達と追いかけっこをしたあの日々は、もう二度とは戻っては来ない。
今は、ドロドロの人間関係と、やらなければいけない物事との狭間で、息を詰まらせながら毎日を何とかやっていくことで、ただただ精一杯だ。
「暑い……」
暑苦しい熱帯夜。ジー、と鳴くケラの声。早く夢の世界へと逃げたい。目が覚めていると、頭の中でグルグルグルグル、否定的な考えが渦巻きぼくを苦しめる。
子供時代は、多少嫌なことがあったとしても、何かに夢中になれば、すぐに忘れることができた。
そんなふうに無邪気にはしゃぎ回っていた子供時代に、戻りたかった。目の前に立ち塞がる嫌な現実から、逃げてしまいたい。
「ねえ、少しの間でいいから、苦しいことを忘れさせて」
ぼくは絵本の表紙に描かれたねずみの子供に向けて、思わずそうつぶやいてしまった。
——それでも相変わらずジーというケラの声と、蒸し蒸しした空気、どんよりした心、……現実の全ては変わらない。
「……やっぱりそんなこと、無理だよね」
明日も、ただただ陰鬱な1日が待っているのだろう。
ぼくは、そのまま溶けるように眠りについてしまった。
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