世にも珍しい尭音の悩み相談から数日。新入生のスキル取得が終わった。
もし合わなければ変更申請を行う事で変えることもできる。ゲームのジョブチェンジの様な感覚だろうか。
役割に応じて戦闘ごとに変えることは出来るが、スキルスロットは一人につきひとつであるため、変更前のスキルの行使は出来なくなる。
スキルの使用頻度などにより上昇するシステム的な熟練度が存在し、熟練度はスキルごとに上げる必要がるため、早々に合うスキルを見つけ、練度を上げることが大切だ。
折角盟約を交わしたのだからと、秋仁さんの発案で『Cry thunder』と『花鳥風月』で模擬戦をすることとなった。
生徒同士の模擬戦はよく行われるため、電子戦争団体戦の実技授業時間での戦場使用許可はすんなりおりた。
設定した時間になると、少し灰色がかった白い部屋に転送された。
戦場解放までの待機部屋は非常にシンプルだ。
四方は壁に囲まれているが、一箇所だけ紙工作のドアのような穴が空いた部屋。出口の向こう側は真っ黒で見えない。
これが試合開始と同時に青白く光る。
今回の模擬戦は外部閲覧不可のため、秋仁さんは成長した姿で軽く準備運動をしている。
何となく僕もつられて準備運動をするが電子化した肉体での準備運動は必要かと言われれば不必要であり、気分の問題でしかない。
それにしても疑似成長とはいえ、それなりの身長はあるので少し羨ましいなと横目で見る。
ふと目が合った。
「ねえ夏樹、あっちは尭音が司令塔だってさ。この鳴沢秋仁ではなくて、夏樹が司令塔やってみる?」
「やらない」
尭音が個人指導の時間で秋仁さんから何を学んだかは知り得ないが、《司令塔スキル》を最初からメインで使おうと個人指導を頼んだ人間と成り行きで使用する人間とではシステム的練度は同じでも、技術的な練度が異なる。
《司令塔スキル》というのは、非常に使い勝手がいい反面、使用が非常に難しいスキルなのだ。
多人数での同時通信を可能とし、大きさが米粒にも満たない擬似カメラを作成、操作することで周囲の索敵も行える。
ただし、擬似カメラひとつひとつをそれぞれ意識して操作しつつ映像を認識しなければならない。
扱い慣れた者で3画面程出すことが出来ればいい方で、基本的に広範囲での複数人での同時通信手段として使われることが多い。
逆にスキル選択者の処理能力と精神力が持てば、際限なく表示することが出来る恐ろしい性能のスキルではある。
突然出口付近の壁に自分たちの情報と、相手の情報、何やらカウントダウンを続ける数字などが表示された。
フィールド指定:森林
戦闘時間:30分
対戦対象:花鳥風月 対 Cry thunder
【花鳥風月】
A-3 鳴沢秋仁:司令塔
A-2 氷川真冬:医師
A-2 四季アリサ:騎士
A-1 富士宮夏樹:暗殺者
【Cry thunder】
A-2 常葉遙:騎士
S-1 大泉尭音:司令塔
B-1 豊橋静紀:狙撃手
B-1 御坂彩乃:騎士
カウントが終わると、真っ黒だった出入口がゲートとなって青白く光った。
秋仁さんが伸ばしてくれた手を取る。
「さ、初戦闘。行きましょうか」
この四角い穴を通れば、フィールドにランダムで転送される。
ばらばらで通ればそれぞれが別々に転送されるが、手を繋いで通れば同じ地点に転送されるという仕様があるのだ。
アリサさんに続いて、真冬さんがゲートをくぐる時、心配そうに僕らを見た。
親指を立てて大丈夫だと合図する秋仁さん。
──唐突に不安になりながら、ゲートをくぐった。
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