電子戦争団体戦のチームには、部活でいうところの部室のような部屋がそれぞれに割り当てられる。
一軍チームとなると、若干広めで設備もそこそこ良い。
「それじゃー!新しいメンバーの歓迎会といきましょー!」
小さな最上級生が片手にグラスを持ったまま飛び跳ねた。
グラスの中のオレンジジュースが一滴も零れることがない所を見ると、彼の体幹が人並外れたものであるような気はしなくもない。
僕が静観していると、長い髪を高い位置で留めた真冬さんが「アキ……コップにゼリー作るのやめなって言ったよね」ジュースだと思っていたものを取り上げた。
そりゃあ、一滴も零れないですよね。
なんせ液体じゃないんだし。
飛び跳ねていた最上級生──秋仁さんは、ぺろりと舌を出してとぼけたが真冬さんに鳩尾を殴られてそのまま撃沈した。
真冬さんは秋仁さんを沈めた拳をそのまま開き、僕へと差し出した。
「改めて、ようこそ『花鳥風月』へ。歓迎するよ」
「ありがとう」
先ほど見た物を記憶から抹消し、その手を握った。
彩乃は僕が『花鳥風月』に入る事を伝えると、『Cry thunder』の勧誘を受け入れることにしたようだった。
おそらく、僕が『Cry thunder』を選んだ場合『花鳥風月』を選択するつもりだったのだろう。
何故なのかしばらく気になっていたが、そのうち分かるなんて言われてしまったら追求は出来なかった。
多分彼女の事だから、後々夫婦になるなら交友関係は広い方がいいとかそういうことなかもしれない。
僕は別に夫婦になるつもりは──多分ない。そんな資格は、ない。
羽目を外して何やら楽しんでいる秋仁さんを眺めながら、紅茶に口をつけた時だった。
真冬さんに「ねえ夏樹、演奏してるところスケッチさせて欲しいって……常葉君に取り次いで貰うこととか…できない?」頼み事をされた。
真冬さんは美術部に所属している。
僕も今までに数回、演奏しているところを描かせて欲しいと頼まれたことはあった。
キーボードより、ギターの方が映えるのだろう。
「真冬さんの方がクラスメイトなんだから頼みやすいんじゃない?」
「出来たら既に頼んでるよ」
「常葉先輩って教室ではどんな感じなの?」
頼んだら何でも引き受けてくれそうな先輩なのに、絵のモデルは断られるのだろうか?
「あまり、話したことない……」
「へえ、意外」
人見知りなんて言葉に無縁そうな真冬さんでも話さない相手が居ようとは。
俯きながら恥ずかしそうに頬を赤らめる真冬さんという、レアなものが見れたことだし頼まれても良いかな、なんて思った時だった。
「真冬。貴方この前、常葉君にメイクして遊んでたわよね?」
部屋の隅で本を読みながら静観していた生徒が口を開いた。
「アリサ…余計な事を………」
ばつが悪そうな真冬さんに、アリサと呼ばれた女子生徒──四季アリサ先輩は再度「常葉君、この前も告白されてたのよね~ほんっと高望みね」言葉を叩きつける。
「わ、わかってるよ、それくらい」
真冬さんが酷く落ち込んだ様子で俯いた。
この二人は対立こそしていないものの、あまり仲がいいとはいえない。
真冬さんは自己評価がかなり低いと思うのだが、昔からどうしようもない所のようだ。もう少し学園のアイドル的ポジションであることに自信を持っても良いと思う。
男子生徒にメイクしていたというのは驚きだが、ある程度交流があるのなら自分で頼んだ方が早いのでは無かろうか。
僕の考えを伝えると、渋々ながら自身で頼む事にしたようだった。
色恋沙汰の話が苦手かつ理解が出来ない僕と違い、常葉先輩は理解はしていても興味が無さそうな様子だったが、真冬さんの告白を断る男子生徒がいるとは思えない。
応援の仕方は分からないが、出来る限り応援したいと思う。
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