電子戦争【本編】

『戦争』が無くなった世界で殺し合う。
旦夜治樹
旦夜治樹

2話『模擬戦争(オリエンテーション)』2

公開日時: 2023年3月8日(水) 02:28
文字数:2,321

 元々の人数が少ないのも勿論あるとは思うのだが、開始数秒で僕ら新入生はたった数名の上級生に片手で数えられる人数まで減らされた。

 電子戦争を授業として扱ってきた人間と、電子戦争を殺し合いとして経験している人間には差があると思い知らされる。

 

 仮想的な死といえど、血が出ないだけで痛みは多少存在する。

 すすんで死にたいとは思わないが、別に最後まで生き残っていたいという訳では無い。

 一応成績に入らないこともないので隠れ、様子見をしている。しているのだが。

 いつの間にか悪友兼邪魔者の尭音が僕の隣にいつの間にか僕の側で身を潜めていた。

 「ちょっとこれ、不味くないか?」

 あっちに行けと目で訴えると、彼はニヤリと笑う。

 「なあ、共闘しないか?生き残る為に」

 「断る」

 戦闘では勝ち目がない。だからこそ僕は隠れているというのに、彼は戦闘を真っ向から仕掛けるつもりのようだ。

 「死ぬなら、ひとりで死んで」

 武器を召喚し、真横へ跳躍する。

 先程まで僕がいた場所を何かが横切り、草木が切り裂かれる。

 飛んできた方向をよく見ると、挨拶時に女子から人気を集めていた長髪の王子先輩が微笑んでいた。

 先輩の口から「幻想格に、その目と髪……君は富士宮先輩の弟か」僕が聞きたくない名前が出てくる。

 「だったらどうするんですか」

 相当苛立っていたらしく、聞きなれない自分の声に少し驚いた。

 王子先輩は微笑みながら武器を構える。

 「いや、面白いなと思って。俺が新入生だった時、この役目は富士宮先輩だったからな」

 「つまり、仕返しということですか?」

 「そうじゃない。そうじゃないんだが……おっとっと」

 背後から先輩に切りかかろうとした悪友の攻撃が余裕の表情でかわされ、先輩の視線が一瞬僕から離れたのを確認。

 電光石火の如く、その場から離脱した。

 背後からの攻撃も感知するような先輩と戦ってられるか。

 もう一度隠れられそうな場所に身を潜め、時間切れを待つことにした。

 暫くすると、試合終了の笛の音が聞こえた。

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 先程までの殺伐とした雰囲気は一変。

 教室は森林から少し広めの野原へ、雰囲気は和気藹々とした交流会といったものへ変わってゆく。

 模擬戦争の生き残りを中心に、賑やかな交流会が始まった。

 本来であれば僕はその中心にいるべきなのだろう。

 部屋の隅から眺めていると、生徒会長さんが優しく微笑みながら「富士宮夏樹さんね。お兄さんにそっくり」近づいてきた。

 「僕は……」

 出かかった言葉を飲み込む。

 先輩はそんな僕に気づかず「富士宮夏樹さんは、誰に指導をお願いするのかしら?私?」何の悪気もない事が分かる笑顔を向けてくれた。

 忘れていたが、僕は何とか制限時間を生き残って専属指導してもらう先輩を指名する権利を得た。しかし、利用しようと思えない。

 逃げて、逃げて、逃げ切っただけ。悪友の様に先輩へ戦闘を仕掛けて戦闘中に時間切れ、なんていうものでもないのだ。

 申請をしたところで断られるのがオチだと思われるし、やはりあまり他人と深く関わりたいとは思えない。

 言葉に詰まっていると「俺を指名してくれないか?」女子生徒に大人気だった長髪王子の先輩が、試合の時とはまた違う笑顔を僕に向けている。

 「えっと……?」

 まさか名前を覚えてません、なんて口が裂けても言えない。

 意味がわからないのでこの先の言葉を言えませんが名前は覚えています、みたいな感じで会話をしていこうかと思っていると「桜川(さくらがわ)霞(かすみ)だ。君の武器は両手にそれぞれ持って扱うものだろう?俺の武器もそうだからな」有難いことに名前を再度教えてくれたので、覚えることにしておこう。

 「………名前くらいなら何度でも教えてやるから、俺を指名してみないか?」

 「お、覚えていますよ、桜川先輩……」

 心の中を読まれている?と一瞬焦りながらも、断るのもどうかと思うので桜川先輩へ指南役をお願いする事にする。

 先輩の顔を見ていると突然「君みたいに言葉にしないだけで色々と考えてる奴が幼なじみに居るから分かるだけだ。変な事は考えないでくれ」謎の説明をされた。

 生徒会長が気を利かせて場を離れ、桜川先輩と話をしていると「夏樹は桜川先輩にお願いしたのか?」空気の読めない悪友がやってきた。

 桜川先輩は、奴にも優しげな笑みを作る。

 「君は俺と時間切れまでやり合った子だね。大泉(おおいずみ)尭音(たかね)君だっかな?」

 はいそうです!と小悪魔的な笑顔を作る悪友の腹を突く。苦しそうに咽るのをいい気味だと眺めたが、一体誰を指名するのか。

 桜川先輩もそれが気になっていたのか「誰を指名するんだい?」僕の疑問を言葉にしてくれた。

 

 ──本当はこの人、超能力者の類なのではないだろうか?

 

 「富士宮君が顔に出やすいというわけではないけど、俺は超能力者の類ではないよ」

 「何の話です?」

 

 ──本当にこの人、超能力者の類なのではないだろうか。

 

 僕と桜川先輩のやり取りをよそに、悪友は堂々と言い張る。

 「ちゃんと確認済みですよ先輩。1年度でひとりにつきひとりしか教えられないというだけで、今回の交流試合で交流しなかった先輩にも指名の申請をする事が出来ることを!」

 何やら嫌な予感がする。

 「可能ではある…が、断られる事が多いぞ?」

 そもそも生徒会は義務的に参加しているものの、このオリエンテーションに参加してない時点で『実力不足』かその『制度に乗り気がない生徒』なのだ。

 桜川先輩も困惑の表情を浮かべる。今回の試合に参加しなかった生徒で、誰もが憧れる先輩といえば、ひとりしか浮かばない。

 「俺は、三年の鳴沢(なるさわ)秋仁(あきひと)先輩に申請します!」

 

 多分断られるだろうな、と思いつつ悪友のアホさに頭を抱えた。

 ──後日、引き受けて貰えた話は学園中の話題になったのだった。

 

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