電子戦争【本編】

『戦争』が無くなった世界で殺し合う。
旦夜治樹
旦夜治樹

2章 理想と現実(リアル)

9話『学内電子戦争団体戦・勧誘戦闘(アピールファイト) 』1

公開日時: 2023年3月8日(水) 02:37
更新日時: 2023年3月14日(火) 01:53
文字数:2,587

 学内電子戦争団体戦。

 所属予定のチームを伝えると、常葉ときわ先輩は頭を抱えて唸った。

 「先輩、どうかされましたか……?」

 「何でもないよ、何でもない……」

 「そうですか…?」

 「………出来れば戦いたくないってだけ。だから大丈夫」

 頭に疑問符を浮かべていると、会話を聞いていたであろう他の先輩が「はるかちゃんの戦闘見れるの楽しみ!」「ワクワクしちゃう!」ひそひそと話をしていた。

 何故、僕の所属によって常葉先輩が戦闘する事になるのか。

 その日説明してもらえることはなく、先輩方の練習風景を眺めて帰った。



 翌日の個人指導の時間。桜川先輩に昨日の話をすると、リーダー同士の戦闘のことだろうと説明してくれた。

 部活動によるが、部員で構成された電子戦争のチームが存在し、軽音楽部では『バンドとして人気のメンバー全員』が伝統なのだという。

 そして、もし勧誘が一人の生徒に重なった場合、勧誘したチームのリーダーが代表として電子戦争を行うことになるのだそうだ。

 なんの決まりも無かった際、弱みを握って加入させるという事がまかり通っていたがために出来た決まりなのだそう。その一番有名な被害者が鳴沢秋仁こと、僕の幼なじみでもある秋仁さんらしい。

 当時の『花鳥風月』の先輩は一体何をやったのだろうか。確か、女子生徒だったような気はする。


 そんな秋仁さんも現在は最上級生であり、『花鳥風月』のリーダーを引き継いでいる。

 『氷川秋仁』は団体戦未所属。出てくるのは当然、電子戦争世界大会覇者『鳴沢秋仁バケモノ』の方だと断定できる。

 ちなみに彼の性格上こういったものは譲ったりしない為、常葉先輩が戦闘をしたくなければ常葉先輩が勧誘を取消しするしかない。

 それでも軽音楽部部長という立場上、勧誘しないということは出来ないのだとか。

 「富士宮ふじのみや君は、何処に所属したいという希望は無いのかい?」

 「どこかに参加する必要は感じていますが、誘われたから参加するといった感じです」

 戦闘はあるものの、結局は勧誘した生徒の選択で決まるのだそう。

 高確率で勝った方の申請を受け入れるらしいけれど。

 周囲へのアピールと自分のチームの売り込みといったところだろうか。


 所属が決まれば、電子戦争準備期間は終わる。

 これからは基礎学習とは比べ物にならない、本格的な電子戦争の活動時間となる。

 つまるところ、それは桜川先輩との個人指導が残すところ僅かである証拠。

 個人指導の時間に、ふと訊ねた。

 「………桜川さくらがわ先輩のチームは、募集してないんですか?」

 先輩はくすりと笑った。

 「悪いな、初等学校からの付き合いの奴らなんだ」

 そんなチームもあるのか。

 「──それに、遙とは戦闘したくないしな」

 仲良が良い相手でも殺せるのが選手なのだが、躊躇なく殺す事が出来るというだけで嫌なものは嫌。出来れば僕も彩乃あやの尭音たかねとは戦いたくは無い。

 初めは桜川先輩の事をとても遠い存在のように感じていたが、暫く一緒に過ごすうちに考えていることも、戦い方も少しずつ分かるようになってきた。

 初めは避けきれずに殺されることが多かったが、流石に毎日実戦していれば多少はよけられるようになった。それでも殺される回数の方が多いが。

 仮想的な肉体であっても、何度も殺されるというのは精神的にくるものがある。

 勝手に沢山休憩してもお咎めなしである理由には、そういった背景がある。

 本日2度目のお茶を飲みながら先輩と雑談していると、僕のメールボックスへ通知が入った。

 どうやら同じものが桜川先輩にも届いている様子。

 件名には、勧誘戦闘の日程とある。

 中身を確認すると、分かってはいたものの僕も無関係では無いようだった。


 明日と明後日は丸一日授業がない。

 その二日間で、チームリーダー同士の戦闘が行われる。

 どうやら複数回戦闘することになるチームリーダーも居るらしい。

 二日目の最後の戦闘に、僕の名前があった。

 桜川先輩が面白そうにメールを読んでいる。

 「一軍同士の戦闘となるとやっぱりトリになるんだな」

 「先輩、何か楽しんでません?」

 「最高に楽しみなだけだ」

 勧誘対象にのみ送信されるメッセージが遅れて届いた。



 勧誘対象となっている人間は、指定された部屋で観戦することになっている。

 クラスメイトでもあり、悪友でもある大泉尭音がいた。

 「………学年首席はたくさんの所から勧誘されたんだね」

 「いやそれ、昨日の時点で分かっただろ?」

 「自分の名前しか確認してなかったから」

 夏樹らしいな、と笑う尭音。隣に座り周囲を見渡す。

 「………彩乃は?」

 何となく訊ねると「彼女のことが気になる?」茶化される。

 「別に」

 付き合ってもいないのだから彼女というのはどうかと思うが、恋愛関係としての彼女という言い方ではないと思う事にした。

 いちいち過剰反応するというのもどうか思う。

 「それにしても夏樹、凄い面子に勧誘されてんな」

 「何が?」

 手元の仮想画面を操作し目の前へ現れたミルクティーを飲もうとして、止めた。

 「だってそうだろ?このチームリーダー同士の試合は負けたらそれ以降に控えてる試合は行えないんだ」

 「それが?」

 「今回、彩乃と夏樹の勧誘は『Crythunder軽音楽部のとこ』と『花鳥風月鳴沢先輩のとこ』の二箇所。でもな、勧誘登録時点で相手方が気付いて取り下げられた勧誘もあったおかげで分からないけどな──お前、数箇所から勧誘されてたの気付いてたか?」

 「どういう、こと?」

 「二日目の最後に学園でも人気の高い生徒同士の戦闘を持ってくること。途中で片方が負けたらどうなる?」

 「盛り下がる」

 「そう。鳴沢先輩は、そもそもお前と彩乃にしか勧誘してないから、お前ら二人ってことで別枠だったんだろうけど、お前一人を勧誘していたチームが全て辞退した。この勧誘試合は負けるとそれ以降の勧誘試合は必然的に不戦敗扱いだ。もう分かるよな」

 少しだけ頭の中で整理する。

 勝ち抜き戦のような試合で、先の先頭で負ければ、後に控えた他の生徒への勧誘は不戦敗となってしまう。

 その中で、今回の勧誘試合の大トリに配置される生徒。

 「…………常葉先輩、めちゃくちゃ強い?」

 「多分な。個人指導の制度にも参加していなかったし、戦績も殆ど分からなかった。別に非公開にはなってないんだが『公式記録』があまりにもない、変な先輩だよ」

 僕は勘違いをしていたのかもしれない。桜川先輩が常葉先輩と戦いたくないと言った理由。それは、もしかして『勝ち目がない』から──?

 彩乃が不在ではあるものの、試合開始の時間となった。

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