あまりに予想外過ぎて、反応に困る。
何となく集めて、何となく手を離しただけであの威力。上手く使いこなせば強力な攻撃手段になると思われるが、果たして僕に使いこなせるのか。
「夏樹!明日からはそれの練習しよっか!」
「えっ…」
新しい玩具を手に入れた子どものように興奮する上級生を見て『使いこなせるか』ではなく『使いこなすしかない』のだと悟った。
鳴沢秋仁という人間は『出来るまでやれば出来る』という、絶滅危惧種的な根性論を持ち合わせている。
非常に面倒くさいが、何処までも付き合ってくれる、お人好し。諦めて首を縦に振る。
というか、頷くしかない。
交流試合は続いてゆく。
秋仁さんのスキルで表示された画面では、アリサさんと彩乃が戦闘していた。
二人とも《騎士スキル》選択者。先輩でもありスキル練度の違いや実戦経験等の差を考えれば決着はすぐに着くと思ったが、実際はそうでは無いらしい。
なんの補助効果か分からないが、アリサさんを狙っているかのような爆発が彩乃を援護している。
はて、爆破系のスキルを誰か選択していただろうか?
秋仁さんも不思議に思っているようで、爆発する謎の攻撃をじっと眺めている。
電子戦争が競技として確立したのはここ100年程度の事だが、競技として確立する以上、システム的な付与能力であるスキルは効果ははっきりと情報として存在している。
爆発がアリサさんの剣の軌道上に現れた時、秋仁さんが声を上げた。
「どうしたの?」
「この爆発《司令塔スキル》だと思う。ちょっとやってみるから見てて」
秋仁さんがスキルを行使し、3個目の画面を呼び出す。
そして、すぐに画面を消した。
数回同じ動作を繰り返しながら、呼び出しから画面の削除の間隔を短くしてゆく。
ほぼ同時になったところで、秋仁さんは一連の動作を止めた。
「夏樹、これは通常のスキル行使じゃないかもしれない」
「と、いいますと?」
「遙はハンドサインで《騎士スキル》を行使している。そもそもハンドサインで行使出来ること自体が不思議なことではあるんだけど、《司令塔スキル》も行使可能であっても不思議ではないと思うんだ」
「なるほど」
「遙はハンドサインだけで、剣を何処にどう生やすかを明確にしている。スキル行使の基本は単純に手の中に剣が欲しいと電子戦争の管理プログラムに言語化して指示を出す事で発動する簡単なものだ。だからこそ、正確に必要なものをシステムへ伝える必要があるお陰で、武器生成は難しいなんて言われてしまう」
スキル特性としての知識は僕もあるが、そんな話は聞いたことがない。
いつもの万能癖だろう。
彼は時々どこから知り得たのか分からない知識を当然の様に並べることがある。
「遙は通常、手元に現れるはずの剣を好きなところから出せている。これは何故なのか、ずっと考えていた。いま話している言語と別の──例えば、文字や言葉以外の言語を使用した場合の使用効果だとすれば、おかしくは無いのかもしれない」
「秋仁さんでも真似出来ない?」
「他国の言語を、単語すら知らない所から理解する以上に難易度は高いからね。知っている者が居れば別だけど、それでも一朝一夕とはいかないと思う」
「出来ないとは言わないんだ」
「現に大泉君が──夏樹!どこへでもいい、思いっきり跳んで!!」
突然のことに驚きながらも言われるがまま跳躍すると、先程まで立っていた場所に無数の剣が生えていた。
手頃な木の上に着地すると、秋仁さんは次から次に生えてくる剣に追われている。狙いは彼のようだ。
周囲を見渡す。遙さんの姿はどこにも無い。
遙さんがスキルで作り出す剣は非常に丈夫であり、簡単に破壊できない。
秋仁さんが地面のぬかるみに足を取られた。
森林フィールドならではの足場の悪さが敵となる。
剣は容赦なく、体勢を崩した秋仁さんの胴体を貫いた。
どう見てもその傷は重傷判定であり、まもなく死亡判定が降りることと、すぐに逃げなければ次の標的は僕であることが予測出来る───が、秋仁さんがにんまりと微笑んだのと同時に、周囲から生えていた剣が砕け散った。
地面に放り出された秋仁さんは、そのまま横になりつつ通信を行う。
通信相手は真冬さんのようだ。
秋仁さんが一言何かを呟いた瞬間、身体は光に包まれて消えていた。
《司令塔スキル》の選択者がいなくなると、通信できる範囲は非常に狭まる。
あまり移動すべきではないような気もするし、早くこの場から動かないと不味い気もする。
そもそも何故剣は消えたのか、どうして今は襲撃がないのか、自分はどうすればいいのか、全く分からない。判断材料が無さすぎる。
考えがまとまらずにいると、真冬さんから通信があった。
「夏樹。常葉君は撃破したから大丈夫。あと、残り時間見てみなって」
言われるがまま試合の残り時間を確認する。
丁度、時間切れを報せる鐘が鳴った。
──そういえば交流試合ということもあって短く設定されていたっけ。
試合が終わると死亡判定を受けた人間も生き残った人間も、もといた空間へと戻される。
今回はお互いチームエリアから戦闘待機空間へと転送されたため、僕は『花鳥風月』のチームエリアへと戻された。
「いやぁ、危なかった危なかった!」
秋仁さんが満足そうな笑みを浮かべながら、個人保管庫《マイストレージ》から菓子類を取り出し、テーブルの上へ並べ始めた。
いつも思うが、何故大量の菓子類を持ち歩いているのだろう。
暫くすると『Cry thunder』から4人が転送されてきた。
ほんの少しだけ、遙さんの顔色が悪い気がする。
僕が声をかける前に秋仁さんが駆け寄り、抱きつく。
「遙、顔が悪いよ、大丈夫?寝る?」
真冬さんが「それをいうなら顔色でしょうに」ツッコミを入れた。僕もそう思う。
遙さんは若干傷ついた顔をしながら「顔立ちは…生まれつきだぞ」苦笑いしながら抱きつく秋仁さんを引き離した。
遙さんの顔立ちは可愛く整っている方だから、顔も悪くは無いのだが。
真冬さんが、ぱんっ。と一度、手を合わせて音を出した。
「さあさあ、交流試合もした事だし!ゆっくりとお話しでもしましょ!」
授業終了の予鈴が鳴った。
通常授業では予鈴はならないが、電子戦争団体戦として時間が割り振られている場合、終了前に予鈴が鳴る。
秋仁さんが立ち上がり「さて、通常授業(お昼寝タイム)に戻りましょうか」指を鳴らすとテーブルに広げられていた菓子類が消えた。
元々秋仁さんが持ち込んだ菓子類だったので、彼のストレージへと再収納されたのだろう。
僕も手元に仮想画面を表示させ、手に持っていたグラスを洗浄にかけると、遙さんがじっと洗浄処理中のグラスを見ていた。
「………どうしたの?」
「不思議だなぁって思って」
「なにが?」
「グラスが浮いて、勝手に洗われていくだろ?」
電子洗浄のことを言っているのだと気付くのに時間がかかった。
確かに水で洗う方法もある。しかし、電子洗浄で洗うほうがずっと楽な上に速いので、当然のように今まで使っていた。
何も感じない程に、当然として使っていた。
言われてみれば、グラスが宙に浮いて水流の視覚効果に包まれて洗浄されるさまは、魔法のようにもみえる。
遙さんは不思議な人だなと思った。
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