電子戦争【本編】

『戦争』が無くなった世界で殺し合う。
旦夜治樹
旦夜治樹

13話『学内電子戦争団体戦・選択』

公開日時: 2023年4月16日(日) 00:00
文字数:2,337

 最後の試合が終わり、尭音が腕組みをしていた。

 「なんか……変な試合だったな」

 彼の疑問はごもっともで、今まで学んできた電子戦争の常識とかけ離れていて、中々受け入れ難いものだった。

 彩乃もそれなりに衝撃を受けているようで「知識だけが実践では無い、という事を見せつけられた感覚です…」僕の服の袖を握り締めていた。

 

 授業がないからといって学校が休みという訳では無い。自分の教室へ戻り試合観戦についての感想、いわばレポートを仕上げる。

 引き分けというのは、どちらも優先して勧誘する事が出来ないということ。

 そもそも優先して勧誘されようがされまいが最後は自分の意思で決めることになるのだが、判断材料としての決め手が無くなるというのは押しが強いチームを断るのが難しくなってくる。

 僕と彩乃は試合の勝敗以外で『Cry thunder』か『花鳥風月』か、好きな方を選ぶ事になった。

 幸い、どちらのチームも干渉してくる気配はない。

 尭音はどうやら、特待生ということや『鳴沢秋仁が個人指導を請け負った』という事もあり、様々なチームから勧誘されていたらしいが試合の勝敗を理由として挙げ、勧誘先のひとつであった常葉先輩のチーム、『Cry thunder』に加入を決めたらしい。


 本当の理由は『常識が通じない人間と戦闘をしたい』というものらしいが、彼の物好きは理解し難いところがある。

 だからこそ、彼は僕のそばに居てくれるのかもしれないが。

 彩乃も何かしら考えているようだったが、何処に行くのかを聞くことは出来なかった。

 僕には彼らと同じように相手の想いを汲み取ることなんて出来ない。

 教室に戻る前に労いの言葉と共にどちらのチームに入るべきか、歳上の幼なじみへ訊ねたが「好きな方に入ればいい」と、やはり困る言葉を貰った。


 僕は、どうしたいのだろう。

 どうしたいかなんて、もうわかっている。

 僕は多分、彩乃や尭音と同じチームに入りたいし、部活も同じバンドで活動したい。

 そう思いながらも、秋仁さんや真冬さんと同じチームにも所属したい。

 電子戦争のチームは1チームしか所属出来ないのだから、どちらのチームに所属する事は出来ない。

 ならば部活は彩乃達と一緒に部活では活動しつつ、電子戦争のチームは秋仁さんたちと活動したいところだが『Cry thunder』からの勧誘を断れば、そもそもバンドの参加資格はどうなるのだろう?軽音楽部の在籍も厳しいのではなかろうか。

 どちらとも仲良くしたいなんて、我儘は通用しないのだろう。



 こんな時に頼れる人間が居ることに感謝しつつ、奴に頼ることを拒否したい自分がいる。

 まさか──兄、春斗を頼ることがあろうとは。

 メッセージを送ると、すぐに返事が来た。

 『保健室に行ってみろ。答えをくれる人が居るはずだ』

 今は先輩方の戦闘を見て感じたことなんかをまとめる自習時間。試合を見ながら纏めていたこともあり、課題は提出できるまでに仕上がっている。

 春斗からの短い文章に従い、頭が痛いなんて仮病を使って保健室へ向かう事にした。


 保健室の先生は丁度出払っていた。

 ベッドはひとつカーテンが閉まっており、使用中とは分かるものの、他に誰かがいる訳では無い。

 春斗は何を伝えたかったのだろう。保健室利用の手続きを済ませるが無論、熱もなければ頭痛もない、完全なる仮病である。

 特に得るものは無さそうなので帰ろうとすると、使用中のベッドからカーテン越しに声がした。

 「富士宮先輩………じゃないな。………弟君の方かな?」

 聞き覚えのある声だった。

 「はい、富士宮夏樹です。………常葉先輩ですか?」

 先輩は答える代わりにカーテンを開けてくれた。

 電子戦争で『死亡』というのは、本当に死ぬ事はなくても、かなり精神力を消耗する。

 一番の回復方法はゆっくりと休息もといい睡眠を取ること。

 ベッド横に椅子を持ってくるように促された。


 常葉先輩の場合、展開時に一度瀕死に近い重症を負った後、精神面の削れ方が激しい≪騎士スキル≫の武器生成を通常ではありえない量行っており、そのうえでの死亡判定だ。

 生成スキルを多用している時点で並の精神力ではない筈だが、それでも消耗はしているはず。

 それなのに常葉先輩は若干ぐったりとした様子ではあるものの、微笑みながら話しかけてくれる。

 柔らかく、そしてどこか安心する雰囲気の先輩に、いつの間にか絆されていたのだと思う。

 やはりどこかふわりと優しく相手の心の障壁を溶解してゆく性質にあてられてしまったようだ。

 それこそ『富士宮』ではなく『夏樹』と呼んで欲しいと、苗字で呼ばれることがあまり好きでは無い事を口に出してしまう程に。

 気がつけば、所属チームをどうしたらいいか相談していた。

 

 先輩は話を聞いたあと、暫く黙ってはいたものの「それなら、部活では彼らと一緒に活動して、電子戦争では鳴沢先輩達と活動すればいいんじゃないか?」至極単純なことを口にした。

いや、それが出来ないから困っているのですけど。

 「軽音楽部の特定バンドに所属したら『Cry thunder』に必ず参加しないといけないという決まりは無いし、バンドだって組みたい相手と組むべきだ。それに、本人たちの希望に反して強制するのは俺が嫌だから、協力はする。俺はただ、何も決まっていなさそうだったから対象者を勧誘したに過ぎないよ」

 「えっ…それは助かりますけど………」

 「なら、決まりだな」

 本当に悩みが解決してしまった。

 「……でも、夏樹君。それはバンドメンバーと電子戦争で敵として戦わないといけないという事だが…大丈夫か?」

 先輩の話がよく分からなかった。

 親しい人間を殺す事になる?電子戦争だから当然では無いのだろうか。

 「どういう事ですか?」

 一瞬しまったという顔の後に「ううん、なんでもない。忘れて」また柔らかな笑顔を向けられた。

 



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