観戦部屋前方にある特大の仮想画面の中で試合が始まる。
画面には草原フィールドに転送された二人の女子生徒の姿があった。生徒会長と先日の突撃先輩だ。
どうやら、勧誘対象1人に対し3箇所以上の申請があった場合、ランダムに1対1となるように調整される様子。
二人で何かを話しているようだが、残念ながら観戦システムは音声の切り取りが苦手だ。
そろそろその辺は在学中から文句を言っていたし、あの馬鹿が何とかしそうだなと思う。
会話内容は分からないが、生徒会長の驚いた表情と、突撃先輩が勝ち誇った様な顔から何となく推測できる。
──本来であれば、突撃先輩は参加予定が無かったのではなかろうか。
双方一瞬で電子装備を展開し、動き出す。
生徒会長の電子装備は短い耳に先端だけふわりとしたものが着いた長い尻尾と襟巻のような物。モチーフはライオンではなかろうか。
武器が西洋剣なのは多分生徒会長の好みだろう。
突撃先輩の電子装備はどう見ても鳥類と思われる翼。
正確なモチーフまでは分からないが、手にしている嘴を模した鋭い槍からは何となく猛禽類を連想させられる。
突撃先輩が槍を地面に突き刺した。
あまり高低差のない草原フィールドの地面が割れ、鋭い円錐状の土塊がぼこぼこと現れる。
あっという間に足場を確保する事が困難になった。
モチーフとなった生き物が翼を持つ場合、多くの場合は制空権を得る。つまり、普通に考えれば現在は突撃先輩の有利な状況。
有利な状況……の、筈なのだが。
僕ら新入生にとってSクラスとAクラスの違いは微々たるものだが、上級生では大差があるようだ。
足場を奪われた所で、この学園の生徒会長にとっては些細な変化でしかない様子。逆に地面の隆起を利用し、飛翔した突撃先輩に攻撃を仕掛ける。
勿論槍で防ぐものの、そのままバランスを崩した突撃先輩は地面へ足をつけた。
飛翔能力を持つ電子装備は一度飛翔した後地面へ降りると再度飛ぶ為に一定の時間が必要となる。
形勢逆転というべきか。
僕ら新入生からすれば突撃先輩の槍術は比べ物にならない高みのレベルなのだが、それを上回る生徒会長の剣術が試合に決着をつけた。
勝利者の名前が仮想画面へ表示される。
最上級生同士の戦闘。
それは、若干の絶望を与えるものだったと感じる。
地形を変化させるなんて芸当もだが、あそこまで槍を扱えて電子装備の能力すら使いこなしたところでAクラス。
今は学年という枠があるが、卒業してからは学年の枠は無くなる。そうなった時、僕は同じ舞台に立っていられるのだろうか?
ぽん、と両肩に手を置かれた。
振り返ると彩乃が微笑みながら僕を見下ろしていた。
「難しそうなことを考えている顔ですね」
「そう見える?」
「夏樹は昔から、何か不安なことがあれば左手首を握り締めますね。色、変わっちゃってるじゃないですか」
「………そうだっけ?」
いつの間にか握っていた自分の手首を離すと、掌に少し血色が戻った。
「大丈夫ですよ、夏樹は。私が好きになった男の子なんですから。どうせ先輩の戦闘をみて、不安になったのでしょう?」
「そんな、ことは………」
何故、僕の周りの人間は僕の思考が手に取るように分かるのだろう。
桜川先輩にも言われたが、表には余りでない人間の筈だと思っているのだけれど。
「むしろ、現段階で勝てると思う方が問題だと思いますよ?相手との力量の差を正確に把握する。それが出来るから夏樹は今、不安になっているんです。その目は夏樹の魅力のひとつです」
「ただ、臆病なだけだと思うけど」
「臆病ってのは時として、最強なんですよ?」
彩乃は僕の隣へ座った。
「大丈夫です。私は、そんな夏樹のそばに居たいんです」
そっと、手を握られる。
「………勝手に居れば?追い払うのは無理だと思ってるから」
「はい。勝手に寄り添いますよ」
それから数試合は内容が頭に入らなかった。
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