生徒会長と、常葉先輩の試合が始まる。
戦場はなんと荒廃都市。こういった公式戦で出てくることは無いはずだが、生徒会長や常葉先輩の様子からして珍しいことではない様だ。
試合開始の合図からすぐ、生徒会長が電子装備を展開する。一方で常葉先輩は展開する様子がない。
電子戦争は一応、対戦相手の前で一度展開した後で展開状態の解除をするとケースバイケースではあるものの、基本的には戦意喪失扱いとなる。全ては試合を監督する人工知能の裁量といえるところ。
しかし、最初から展開しない場合については特に規定は無い。
展開し続けると疲労は溜まっていくので、連戦や長期戦を想定される場合はこまめに展開解除しておくのも大切ではあるのだが。
常葉先輩が右手を軽く振ったとほぼ同時。生徒会長が数瞬前、立っていた場所にロングソードが勢い良く数本生えてきた。
タイミングがほんの少しズレていれば串刺しになっていただろう。
隣を見ると、尭音が首を傾げていた。
「あれって《騎士スキル》の武器生成だよな。なんで電子装備展開しないで使えるんだ?」
尭音と同じ事を僕も気になっていた。
電子戦争にはスキルというものが存在する。
ゲームのような魔法を使う事も一応は出来るのだが、当然それは電子装備を展開時にシステム上で扱えるもの。
一年生はまだスキルの選択をしてない関係で使用できないが、スキル行使は電子装備を展開している状態でしか出来ない筈なのだ。
おまけに物体の生成系は非常に精神力を削られてしまうこともあり、連発または同時に複数生成は限りなく不可能に近い。
何となく、常葉先輩はチートと呼ばれるものではなかろうかと思い始めた。
ぶっ飛んだチートの塊を知ってはいるけれど、あの赤い幼馴染はノーカウントだろう。
生徒会長は地面から無数に生えてくる剣をかわしつつ、確実に間合いを詰める。
しかし、あと数メートルといったところで侵攻は止まった。
常葉先輩の胸に地面から生えた剣が突き刺さり貫通、そのまま生徒会長の突っ込む先に剣先を向けていた。
自身の攻撃で自身の身体を突き刺す行為。単なる自傷に過ぎないそれをみて、慌てて撤退の構えを取る生徒会長。
常葉先輩が、電子装備を展開する。
通常であれば負傷後電子装備を展開したところで損傷度が回復することは無い。
通常であれば。
二等辺三角形の大きな耳に、ふわりと立派な尻尾。イヌ科の動物を思わせる電子装備が美しく展開された。
剣に貫かれた事による損傷度は完全回復しているようだ。
常葉先輩が次の動作に入るより先に生徒会長は『敗北宣言』を行った。
仮想画面上に勝利者の名前が表示される。
常葉先輩は、初期地点から一歩も動かずに勝利した。
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