「ただいまー」
ドアを開けてそう言うも返してくれる声はなく、ただ独り声が反響した。廊下の奥にあるドアのプラスチック製の窓から光が漏れ、わずかに誰かの話す声が聞こえてきた。キィバタンと、自重に任せて扉を閉めた音は何よりも重く冷たい音と風でフワッと背中を押した。キッチンを兼ねる廊下を抜け、ドアを開けると居間のど真ん中に鎮座するソファにさらに鎮座する、というよりも横たわる小さな女の子が目に飛び込んできた。彼女はバラエティー番組の流れるテレビを注視していたが、ドアが開いたのに気づくとすぐさま体を起こした。
「おかえりー!」
こちらを見て微笑みながらそう言った。頭を撫でてやると嬉しそうに、それでいてどこかむず痒いような表情を浮かべていた。
はっと気づき、バッグに手を入れ、ラッピングされた小さな四角い箱を取り出した。ギリギリ片手に乗るような正方形の本当に小さな白い箱で赤いリボンで絵に書いたようなプレゼントボックスであった。
「プレゼント⁉いいの?」
勢いよくソファに膝立ちになり、目を輝かせながらプレゼントを受け取った。
「開けていい!?」
うなずいたのを見ると勢いよくリボンをほどき始め、箱を開けた。そこには赤い薔薇を模したような花が一つついただけのヘアピンが入っていた。
「ちょっと待っててね」
そういうと箱からヘアピンを取り出し、後ろを向きごそごそと作業し始めた。そして再びこちらを向いた時には手からヘアピンがなくなっており、頭につけられていた。
「どう?似合ってる?」
似合ってるよと言うとまた微笑み、
「ありがと!大事にするねっ!」
といった。
「ご飯作ってるから早く食べよ!」
ソファから降りた彼女に手を引かれて体がよろめいた。その時なびく髪からほんのりと甘いシャンプーの匂いが鼻腔を蕩かした。
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