※ナモミ視点
※ ※ ※
状況は今一つ理解しがたい。
整理していかないことには、頭は今にも割れてしまいそうだ。
まず、どうやらあたしはサンデリアナ国側にさらわれてしまったらしい。
元々はブーゲン帝国のビリアちゃんが狙われる可能性が高いことは分かってたからみんな色々と準備して警戒もしていたはずなのに、なんでよりにもよって、あたしが捕まってしまったんだろう。
あの様子だとビリアちゃん本人は捕まっていないみたいだし、とんだ取違いもあったもんだ。
そして、あたしはビリアちゃんとしてサンデリアナ国の王子と結婚させられてしまうらしい。どういうこった。いや、本当にどういうこった。
そんな勘違いってあるの? いや、あたしもノリノリでやっちゃったのも事実だけど、いくらなんでも無理があるでしょ。これ以上ビリアちゃんの下手くそな物真似して誤魔化せる気がしない。
何処かで逃げ出す機会をうかがわないと、処刑か、奴隷か、いずれにせよ、明るい未来は遠ざかっていく。万が一物事が上手くいったところでワンワンの妻だ。冗談じゃない。
あたしがいなくなったことは多分ゼクたちも気付いているはずだし、早く助けが来ることを祈ってどうにかするしかない。
こんなガラスケースに閉じ込められて身動きもとれないような状況。助けを呼ぶことは叶わないだろうけれど、惑星『フォークロック』に向かっているというなら好都合だ。
何処か知らない惑星に飛ばされないだけマシというもの。下手したらこれから奴隷として売り飛ばされるルートもあったのだから奇跡的な回避はできている。
みんなも今ごろ『フォークロック』に向かっているだろうから助かるチャンスは間違いなくあるはず。まさか、いなくなったあたしを探して寄り道なんてことしてたらどうしよう。その線はあまり考えないでおこう。
きっと、ゼクが助けに来てくれる。それを信じるしかない。
それにしても、さっきは迂闊なことを聞いちゃったのかな。
惑星の破壊者さん。本当にいるのかどうか、興味本意で訊ねてしまったけれど、あの態度は何処か不穏だった。少なくともあの二人は違うことが分かった。
でも、まるでその話題を避けるみたいにそそくさと部屋から出ていってしまった辺り、何か隠していることがある様子だった。そんなに喋りたくないくらい恐ろしい人だったりするのかな。
名前を呼ぶのもお恐れ多いような、とんでもない人だったりして。何せ、惑星ごと破壊しちゃうような暴れん坊らしいし、機嫌損ねて『フォークロック』を粉砕されたらブーゲン帝国もろとも、サンデリアナ国まで滅んでしまう。
いや、実際に惑星を破壊だなんて大層なことができるのかなんて分からないんだけど。伝説はあくまで伝説ってこともあるだろうし。案外、そんな人、最初っからいなかったなんて言われてもまあ納得はできる。
大体どうやってそんなことができるというのか。大砲か? とんでもなく巨大な大砲か? いや、でもそうなるとそれは兵器であって、個人の呼び名ではなくなるのから違うよね。
もし本当にそんなとんでもない人がいたとしたらどうなってしまうのだろう。
ゼクやエメラちゃん、ビリアちゃんたちは、どうなってしまうのだろう。
星一つ破壊できるのなら、人間の一人や二人、マシーナリーの一体や二体、獣人族の一匹や二匹、容易くひねり潰されてしまうのでは。いっそ跡形もなく粉みじんに粉砕されてしまうのでは。
ますますもって、あたしの生存率が低くなっていく一方じゃん。
未だかつてこんな絶望的な状況ってあっただろうか。
まあ、人類が滅亡寸前という状態に直面しているからある意味ではこれ以上の絶望はないと思うのだけれど。
自分の心配もあって、みんなの心配もあって、なんともはや心が押しつぶされてしまいそうだ。さながら死刑台の階段を上っているかのよう。
一体全体どうしてこうなってしまったのか、誰か、説明を求む。
ポジティブに考えるのなら、この後、夢にまで見た王子様との結婚を控えていることになるんだろうけれど、誰がこんな展開を望んだというのか。相手はあのバカ犬王子だし。
まあそもそも成立するとは思えないし、仮にビリアちゃん本人だったとしても普通に破談になりそうだ。ビリアちゃんも今回の件について色々と思い悩んでいたようだった。
何せ、バカ犬王子の企みによって祖国が壊滅の危機にさらされている。その理由はビリアちゃんを自分のものにするためなのだという。
獣人族は力強きものが全ての世界。犬王子は権力を見せつけ、戦争まで起こしてビリアちゃんを屈服させる気マンマンだったよう。そうしてブーゲン帝国も、ビリアちゃんも全部いただくという算段なんだとビリアちゃんは推察していた。
ただ、ビリアちゃんの求める強さというのはそういうものじゃなかった。バカ犬も気付かなかったもんなのかね。許嫁で、しかも聞けば幼なじみだというのに。
ビリアちゃんは、犬王子をどうにかするつもりだったらしい。その内容までは聞いてない、というか聞かされていない。責任を取るみたいな言い回しをしていたけれども、やっぱりバカ王子と結婚する心づもりだったりするのかな。
あるいは、言葉では言い表せない物騒な手段か。
あたしたちが『フォークロック』まで送り届けた後、ビリアちゃんが壊滅状態の祖国のためにどのような計画を考えていたのか、それは知りようもない話。でもこれからあたしは、ビリアちゃんの身代わりとなって『フォークロック』に向かっている。
それってつまり、今起きているブーゲン帝国とサンデリアナ国の両国の命運を分ける鍵を握っているのは、図らずもあたしということになってしまうのでは。
いやいやいや、勘弁してよ。ビリアちゃんの代わりなんて無理だよ。
でも、ゼクたちが助けに来なかったら。あるいは助けに来るのが遅れてしまったら、そういうことになってしまう。
あたしごときに一体何ができるっていうのよ。あたしただの地球人よ。超能力とか怪力とか知恵だって心許ないっていうのに。
残されている時間は恐ろしく短い。即位式が終わってしまえば、全てが終わる。
こんなガラスケースに閉じ込められたまま、あたしはただ運命の時を待ち続けることしかできない。
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