なんともはしたない光景が目の前で繰り広げられる。
あまり上手くコントロールできていないのか、プニカに抱きつかれたキャナはふらふら、よれよれ、ふわふわと不規則に飛んでいる。なんと危なっかしいことか。
俺もまだ超能力者についてはよく分かっていないからアレだが、最近は少しずつ勉強して分かってきたことがある。
このキャナの持つ不思議な力は結構メンタル面に左右されるらしい。興奮している状態だと思うように使えなかったり、感情が大きく揺れ動いていると制御しづらくなってしまったり、かなり複雑なものだとか。
キャナは普段からふわふわと浮かび、あたかも使いこなせているかのように見せているが、あれでいて実は完璧にコントロールできているわけではないようだ。
感情が高ぶりすぎると、手当たり次第に周囲のものを巻き込んで暴走してしまうこともあるらしく、いつも自分の感情をどうにか抑えるようにしているらしい。
俺も調べた範囲の情報と、キャナ当人から聞かされた話くらいでしか分かっていないのだが、想像していたよりもずっと難儀な能力のよう。
「ふやぁ~あぁ~」
女の子が裸で抱き合いながら宙を舞う、このなんともよく分からない状況を俺はどのようにして収拾すべきなのだろうか。
ストン。ぽふっ。二人がベッドの上に落ちる。狙ったものなのかどうかは定かではないが、床に落ちなくて何よりだ。
仰向けに倒れるキャナに覆いかぶさるようにプニカが乗っかっている格好になっている。身長差の都合上、プニカの顔面はキャナのソレ、豊満な胸の中に突っ込んでおり、衝撃は十分に軽減されたのではないだろうか。
「ぱふぅっ、きゃ、キャナ様……」
息継ぎするように胸から顔をあげ、谷間越しにキャナの顔を見つめるプニカ。
「ぃ……いややぁ……、こんなん、いやぁぁ……ああぁぁ~っ」
しなしなと、まさかのガチ泣きである。
お前いつもナモミに似たようなことをしているくせして、自分が女に胸を揉まれると泣き出すのかよ。いや、まあ、この状況はさすがにキャナを責めるような要素などなかったわけだが。
「プニカ、その辺にしておいてやれ。キャナも困っているじゃないか」
プニカの体をひょいと持ち上げ、キャナから引っぺがす。
なんでこんな子供の喧嘩を仲裁するような役回りになるのやら。
一方、プニカの方は、まさかキャナが泣き出すとは思っていなかった、というかキャナが泣き出すことがあるのかという驚きの表情を浮かべ、硬直している。
さすがに普段のキャナを知っていると分からんもんだ。こんな子供みたいに泣き出すキャナなんて見たこともなかっただろう。もっとこう、押せ押せなイメージ、寛容あるふわふわなイメージが強かったに違いない。
「ぃぃやあぁぁ~……ぅぁあ~ん」
子供みたいにえんえん、わんわんと泣きわめく。
「……も、申し訳ございません、キャナ様……」
ようやくして自分のしたことを理解したのか、プニカが謝る。割と遅い。行動に出る前に気付くべきだろうに。
当のキャナはメンタル面ぐちゃぐちゃになっていることだろう。性行為中に乱入されただけでも相当なのに、あんなしっちゃかめっちゃなことやられて。
プライベートなところ、特に性行為の最中を見られるなんて、これほど嫌なこともあるまい。キャナが一番嫌がることをあれだけやってのけるプニカにはある意味賞賛する。
「ほら、キャナも泣き止めよ。プニカもこう言っていることだしさ」
「ふええぇぇ~ん……ぐす、ぐす……」
泣いているキャナも案外可愛いもんだ。泣きじゃくる顔も見慣れていないわけでもないのだが。
「キャナ様……、普段と違ってベッドの上ではこのようにしおらしいのですね」
プニカが感想を述べる。いつもと違う、キャナの知らない顔を見て興味津々のご様子だ。
「先ほどは大変失礼致しました。お詫びとして私も少し手伝わせていただきます」
はたして、それは反省しているつもりなのか、有無を言わさずプニカが加わり、プニカの手がキャナに触れていく。お前はもう少し反省という言葉の意味を学ぶべきだと思う。
「ゃぁ~ぁ……、もぅやぁぁ……いややぁ……」
少し、表現に耐えない状況が俺の目の前に広がっている。
ただいえるとすれば、キャナは色々な感情に身悶えしていた、とだけ。
割と最近分かったことだが、こんなにもされて超能力者の力が暴発しないのは、完全に制御を失ってしまっている状態だからのようだ。
きっと頭の中は沸騰しそうなくらいクツクツと煮立って、真っ白になっているに違いない。そうなると力が分散してしまい、精密な操作を必要とする力は発揮できなくなるらしい。
怒り心頭ならば分散した力があらぬ方向に拡散してしまうとは言っていたが、それもさらに突き抜けると小石一つ動かすこともできなくなるとか。
とどのつまり端的に言って、今のような極度の羞恥心に苛まれると使うこともままならなくなるということか。やっぱり想像していたよりもずっと不便な能力のようだ。
まあ、この状況で制御の利く程度に暴走していたらそれこそ手がつけられなくなる話だが。
人に胸を揉まれると使えなくなる超能力とは一体。まさかとは思うが、普段やたらとナモミ相手に使っているのは自分なりの制御トレーニングだったりするのだろうか。
目の前で普段とまるで違う顔で悶える素のまま、ありのままのキャナを眺めて、俺はふとそんなことを思った。
※ ※ ※
「ゼックン、うちいやや言うたよね?」
満足げにプニカが帰ってから直ぐ、怒りの感情をあらわにしたキャナが腕を組み、仁王立ちで俺の目の前をふわふわと浮遊していた。制御を取り戻したらしい。
顔を真っ赤に染め上げて、泣き腫らしてうるんだ瞳で強く睨まれる。小刻みにぷるぷると震えてはその圧で凄まれる。
横にちらりと目をやると、無残にもひっくり返された俺のベッドやソファが転がっている。次は俺の番なのかもしれない。
「わ、悪かった……」
俺もプニカにあてられてずいぶんと調子に乗ってしまったところはある。そこは反省しなければなるまい。
「クセになったらどないすんねん、アホぅ……」
ぷい、っとそっぽ向かれてしまった。
露骨にほっぺをぷりぷりとさせて、もう少しは猶予のありそうな態度ではある。
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