ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ

性行為しなければ、人類は絶滅するらしい。
松本まつすけ
松本まつすけ

無法地帯 (2)

公開日時: 2021年12月18日(土) 00:00
文字数:2,500

 『サジタリウス』号はゆったり空を舞うように降りていき、着陸できる地上を探した。事前にある程度の目星はつけてあったが、どこもかしこも治安がよろしくない。


 まともな法整備のされている惑星であれば、入星申請などの段取りの後、適切な国や都市へと誘導されるところなのだが、あいにくとそんなものはない。


 せいぜい、変なのに目をつけられないうちに適当なところに降り立つだけだ。


「酸素濃度は問題ありません。汚染状態もクリア」


 ズーカイがアナウンスを続ける。やはり人類が生活しているとだけあって、そこら辺は大丈夫らしい。場所によっては降り立つだけで重装備も覚悟していたところだ。


「この先にミザールと呼ばれる国があります。一先ずはそこを目指します」


 とは言われても、惑星『カリスト』のこともよく分かっていない俺にはミザールがどういった国なのかはあまりピンとこない。いい国なんだろうな。


 せめてなるべく大きな揉め事が起きないことを祈るばかり。小さな揉め事に関しては諦める他ないだろう。そっちは既に起きてしまっているし。


「なるほど、ここいら、は、植物も、自生しているの、カ」


 荒れ果てた土地ばかりかと思えば、そうでもないらしい。少々歪な形をしてはいるが、森のようなものも見えてきた。


 木々の一本一本が融解したキノコみたいで、自重を支えられているのか不安になるフォルムをしている。見るからに毒々しい色合いをしているし。


「あれは毒性はなし、っと」


 ザンカが何やら植物のデータを片っ端から解析し、手元のデータと照らし合わせている。さすがに着陸早々、毒ガスにまみれるのはごめんだ。


「あのキノコみたいなのも無害なのか?」


「あれはキノコじゃありませんよ。表面に薄赤い包皮のような葉を被り、光合成をしている植物です。一見すると一枚の大きな葉がテントのように張っているように見えますが、実際には数百枚くらい重なっているみたいですね」


 そうなのか以外の感想が出てこない。ザンカもよくよく調べてくるものだ。


「食えるのか?」


 ジニアが横から変な質問を繰り出してくる。


「食べれるか食べれないかで言えば、まあ食べられるでしょうが、食用のものではありませんし、味の保障もありません。一応調べてみたところ、葉っぱをサラダのように調理したデータがありました。エグいくらい苦くて辛いそうです」


「へっへっへ、ならパスだな。美味そうな形してんのになぁ」


 道草を食おうとしているんじゃない。いや、あれは木なのだが。


 ただでさえ、いらない道草を食ってる最中だというのに。


「ミザールが見えてきました。着陸準備に入ります」


 見れば、キノコじみた森が開けた先に、点々と建物の並ぶ町が見えてきた。どうやらあそこがミザールとやららしい。


 どんな荒れ果てた田舎なのかと構えていたが、ちゃんと町は町のようだ。何か、廃墟のような場所を想像してしまっていた。


 しかし、治安はお察しの通り。町の上空にはハエのように小型の飛行機が飛び交っている様子が見てとれた。


 あれが巡回している警備機だったらどんなに良かったことだろう。


 俺の目がおかしくなければ、スクラップが飛んでいるように見える。


 事故を起こしたのか、交戦したのかは知らないが、先ほど喧嘩をふっかけてきたあのオンボロとそう大差ないものばかりだ。


 たまにオンボロには程遠い、豪華な装飾の施された高級そうな機体もちらほら見かける。その周りだけ不自然なほど他の飛行機は避けて飛んでいく。きっと喧嘩を売っちゃいけない相手なのだろう。


「おいおい、こっちに降りるのか? 向こうの広いスペースじゃねぇの?」


 そろそろ着陸しようというときにジニアが言う。


 今、ズーカイが降りようとしていた場所は、町の外れの空き地みたいなところだ。


 よくよく向こうの方を見てみると、町の中央辺りに開けた空港のような場所があった。大型の飛行機は殆どそちら側に停まっている。


「あそこに停めるのは面倒だと思いまして」


 と、そのままズーカイは町外れに着陸していく。


「目立たないようにするためか?」


「いえ、あの一帯はミザールを牛耳っている一派のテリトリーのようでしたので」


 そういうのもあるのか。確かに、停まっている飛行機はどれもオンボロではなかった気がした。間違って停めていると囲まれる危険性もあったわけか。


 ズーカイもこういうところで気が利く。あまり知らない土地だというのに。


「ゼクラさんももう少しデータを吸収してくださいよ。折角用意したんですから」


 ザンカに文句言われてしまった。お前のデータが膨大すぎるんだよ。と、言い返すこともできない。


 仕方がないので読み返す。


 この国、ミザールは『カリスト』でも比較的に安定した土地らしい。というのも、アルコル・ファミリーというマフィアが根城にしているからだそう。


 元々あちこちで悪い金を貯め込んできた連中だったらしいが、ミザールに来てからは独裁政治と言わんばかりに金にものを言わせて好き勝手やってきたのだとか。


 その結果、無法地帯の中でも権力構造が形成されていき、ミザールではアルコル・ファミリーに逆らえる者はいなくなった、と。


 ともかく、アルコル・ファミリーに喧嘩をふっかけない限りは、金次第でどうとでも歓迎されるようだ。


 そこのところを上手く対応することができれば、目的のものを調達する分には障害がないように思える。


「まあ、分かった。このミザールではアルコル・ファミリーに気をつけておけばいいんだな」


「金銭で解決できることならソレで手を打ちましょう。ただし、あまり大盤振る舞いしすぎないようにお願いしますよ」


 ザンカはやや強めの口調、鋭い目つきでジニアを睨み付けながら言い放つ。


「わぁーってるよ!」


 無駄に散財する光景がありありと目に浮かんだ。


 金ならいくらでもあるとはいえ、見せびらかすとろくなことにならない。


「一応、ミザールでの大体のレートを渡しておきますから」


 必要となるであろう燃料や武器などの相場が一覧で表示されてくる。この程度の額であれば買い物に不自由することはないだろう。


 相変わらず何処から引き出してくるんだ、こんな情報。今日たまたま初めて訪れた辺境の惑星じゃなかったのか、ここは。

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