※ナモミ視点
どういうことよ。
本当にどういうことなのよ。
こんな運命があってたまるかっての。
でももう完璧に子作りするしかないよね、現実。
ついさっきなんか思いっきり拒否して逃げ帰ってきたばかりだけど、もう完全に子作りしなきゃダメな状況だよね、実際。
人類、絶滅しちゃうよ? 本当に。
でもほら、結局のところ形あるものはいずれはなくなるものっていうじゃない?
人類がこの宇宙からいなくなるのも自然の摂理ってやつじゃない?
あー、でも、なんだかんだ何十億年と繁栄してきたのに、あたしが拒否したせいで絶滅とかなかったらちょっとしょうもなさすぎる?
こんな小娘一人のワガママで人類滅亡って。
あー、やばい。もー、やばい。
プレッシャーやばい。
子作りしなきゃ人類やばいってのがやばい。
だって、それってさ、アレだよ。
ゼクとアレなわけよ。
ヤれってか。
無理、無理、無理。
かといっても、七十億年前に好きな人っていたっけ?
クラスメイトとか彼氏作ってたけど、あたしってば拒否ってばっかでそういうのには全く縁がなかったというか、むしろ自分から縁を断ち切ってたよね。
将来的には誰かの奥さんになるのかなとか、なんだかんだ独身で生涯の幕を閉じるのかなとかさ、ほわほわと思っていたけど、ここでいきなり求められるか将来。
幼馴染とか、クラスメイトとか、身近なとこじゃなくて、ゼクか。
でも、どうなんだ。
ゼクは、顔悪く、ないよね。
性格は、あれで悪いとか言い出したら合格水準どんだけ。
そらまあ、初対面のときは印象最悪ではあったけれども、そんくらいのことはあっという間に払拭できてしまった。
お相手としてゼクは、別に悪くない、よね。
あー、やばい。また顔が熱くなってきた。
なにこれ、沸騰しそう。
いや、なんだろう。本当に凄く暑くなってきた気がする。
さっきからヒートアップしてきてるせい?
それにしたってなんかおかしいような。
おなかの奥が妙にじんじんする。まるでそこで鍋でも煮込んでいるかのような、なんとも不思議な感覚だ。
何かヘンなものでも口にしたっけかな。
そう思って真っ先に思い浮かんだのは、プニーのドリンクだ。
子作りするにはピッタリの特性ドリンク。
なんだかさっきから熱っぽくて頭がフラフラしてきたのはもしかしたらプニーのドリンクのせいだったのでは。
アレが今になって本格的に効いてきたのかもしれない。
風邪とはまた違う、なんともふわふわしてくるこの火照った感じ。これもう完璧に身体が子作り準備万全の状態を整えちゃってる感じなのでは。
生存本能が津波のように押し寄せてくる。
プニーも悪気はない、というかまあプニーからしてみればやっていることは至極真っ当なことなんだろうけれども、何というか控えめにいってまずい。
めちゃくちゃ身体が熱くなってきた。
なんてものを飲ませてくれちゃったのよプニー。
未来の技術やべぇ。
あー、もう、なんだこれ。おなかの奥の方がぽかぽかしてきてる。一体どういう成分で、どういう作用が働いて、どういうことになっているというのか。
赤ちゃんが欲しい。脳裏へダイレクトにソレがぶつかってくる。
これは女としての本能なの?
どうしよう、赤ちゃんが欲しくなってきた。
ちょっとまって、本当にどうしたの。赤ちゃん作らなきゃって頭がアラートを全力で鳴り響かせてきているんだけど。
落ち着け、落ち着け、落ち着かなきゃ。
赤ちゃん欲しい。待って待って。ああ、赤ちゃん生みたい。そうじゃなくて。
一旦、落ち着こう。深呼吸だ。
ひっ。
ひっ。
ふー。
ひっ。
ひっ。
ふー。
あれ、なんか違う? ああもう、熱くて思考回路もダメになってきたかも。
こんなときにゼクがいてくれたら。
ん?
……いてくれたらどうなるの?
いやいやいや、ゼクがいたらどうなるのよ。
人類繁栄しちゃうじゃない!
うぁー……、なんかゼクのこと考えたらまた頭ン中がぐちゃぐちゃになってきちゃった。てか、ゼクってすっごいイケメンじゃね?
想像すればするほど美化されてきてる。あれ、おかしい。そんな顔じゃなかったような。思い出そうとすればするほど深みにハマってきちゃう。
カッコいいイケメンのゼクの想像が、妄想が止まらなくなってくる。
ぶっちゃけゼクの子供産んだら幸せになれるんじゃないの? ゼクの赤ちゃん、ああ、ゼクと子作り……。
やばい。
これやばい。
マジでやばい。
あ、あ、あ、赤ちゃん、欲しいぃ……っ。
くぅ~……、静まれ、冷静になれ。本能に突き動かされちゃダメだ。
なんなのよ本当に。もはや媚薬か何か?
マンガやアニメや小説じゃあるまいそんなバカな代物が現実にあってたまるか。
あ~あ、もうすっごい、ぐっしょりになってる。
びっしょびしょで気持ち悪い……。
ベッドの上、もう染みができちゃってるじゃない。まるでおねしょ?
こんなに汗をかくなんて。
頭の先から足の先まで火照っちゃって完全にオーバーヒートしてるみたいだわ。
クールダウン、クールダウンよ。
そうだ、シャワーを浴びよう。そうすれば少しはスッキリするかも。
この部屋にはちゃんとそういうのも用意してある。プニーにもリクエスト入れてあたしでも使いやすいよう設計してある。プニー万能マジ万能。
汗を吸った服なんてさっさと脱ぎ捨てて、シャワールームに駆け込もう。
どうせこの部屋に入ってくる人なんて早々いるわけでもなし。
すぐそこのドアを開ければもうシャワールーム。脱衣所もスルーして、飛び込むようにして蛇口を探り、そして捻る。
「はぁ~……」
壁に掛けられたシャワーヘッドの先から冷たい水が雨のように降り注いでくる。
あやうく発火しかねないほどに熱暴走していた頭も身体も一気に冷やされて、汗と一緒に色々なものも流されていく。
シャワーってこんなに心地よいものだったっけかな。
「はふぅ~……」
あともう少しで色々とやばいところだった。ふとおなかとかさすってみたりする。大分落ち着いてきたっぽい。
しかし、この後ゼクの前でどんな顔をすればいいのだろう。せめて一晩は置かないと気まずい。
『通達です。新たな人類が蘇生されました。至急指定の部屋まで』
「は?」
唐突に壁にポーンと投影されるプニーからのメッセージ。
ぽわーっと立体映像付きなんて未来的だなぁ。SFの世界みたい。
これっていわゆるメール的なものかな。しかもかなり重要っぽい。
このメッセージから察するに、ゼクも絶対にいるよね。
やっぱりこれ行かなきゃダメな空気? だよね?
ああ、もうどんな顔して行けっていうのよ。
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