ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ

性行為しなければ、人類は絶滅するらしい。
松本まつすけ
松本まつすけ

結婚しちゃった

公開日時: 2021年10月17日(日) 00:00
文字数:2,503

※ナモミ視点

 結婚しちゃった。


 なんだかよく分からないうちにゼクと結婚してしまった。未だに実感も何もなく、夢を見ているかのような、そんな気分だ。


 もっとこう、事前に色々と覚悟を決めてやっていくところを、かなり過程をすっ飛ばしてしまったので、そこはかとなく、空虚なところもなくはない。


 一応、ほんのついさっきまであのバカ犬王子とまかり間違って結婚させられるかどうかの瀬戸際まで迫っていたから別な意味でずっと緊張していたのはあるけど。


 でもまさか、ゼクと結婚させられるとまでは思ってもみなかった。急な話だったとはいえ、そんな取り消しする気は毛頭ないし、願ってもないことだ。


 晴れて、あたしはゼクと夫婦になった。やっぱり実感も何もないんだけど、別段、何がどう変わるというわけでもないし、むしろ今までもある意味では夫婦みたいな生活していたから何も変わっていないというべきか。


 戸籍とか、ブーゲン帝国での法律とか、そういうのはどういう取り扱いになっているのか、気になってエメラちゃんに聞いてみたところ、こういう返事が返ってきた。


「女王の権限である程度の審査は免除されてたッスけど、正式な申請がされてちゃんとした夫婦として登録されてるッス。ちなみにブーゲン帝国の法律だと子供が産める状態になっていれは結婚は認められているッスからこちらも特には問題なしッス」


 といった感じで、その他色々と解説してもらったけれど、やっぱり形だけの結婚じゃなく、本当に本格的に、まさしく正式に夫婦として認められているらしい、ということが分かった。


 別段、ブーゲン帝国で結婚したからといってここに定住、永住する必要とかもないらしい。全くの異国の地でルールに縛られる、といったことがなくてホッとした。


 ちなみに、一夫多妻はありなのかどうかをビリアちゃんに尋ねてみたところ、翻訳機が機能しなかったのかレベルで「何言っておるのじゃ?」という顔をされてしまった。


 どうやら獣人族の結婚、略して獣婚は複婚も重婚もありありらしい。というか、しない方がおかしいんじゃないかって話だそう。浮気とか大丈夫なのかな、と思ってみて、今の自分の置かれた状況を思い返し、その疑問はそっと胸にしまった。


 はぁー……結婚かぁ。いや、本当のところ憧れではあったし、いつかするのかなぁ、なんて思っていたのも七十億年前のこと。


『ノア』ではそもそもそういうことを考えていなかったし、むしろ結婚なんて概念があったのか? って次元の話だ。


 図らずも、密かな夢は叶ってしまった。思いもよらぬ形で、七十億年前では考えもしなかった相手とだ。


 結婚披露宴ではビックリするくらいに祝福されてしまった。あいにくと親戚とかは時間の都合で出席できなかったわけだけれども、というか、いなかったわけだけれども、お姉様やビリアちゃん、エメラちゃんたちみんなには盛大に祝われた。


 なんかまあ、ゼクがあたしの知らないところであたしのために大暴れしてしまったらしく、その結果、ブーゲン帝国がサンデリアナ国の事実上の支配下から抜け出し、今やゼクは救世主として祭り上げられてるとか。


 そのせいであたしも巻き添えになって大盛り上がりのお祭り騒ぎだ。


 本当、あたしの知らないところで一体何をしてくれちゃったのやら。なんか、穏便に隠密にことを運ぶとか言ってなかったっけ?


 いやまあ、あたしがサンデリアナ国に拉致されてなければこんなことにもならなかったとは思うけど。


 なんてしてもどうにしても、あれやこれやとてんやわんやの大騒ぎだ。目が回りそう。早くもつわりが来てしまったか。


 つわりといえば、あたしもいよいよ母親になる。とうとうこの日が来てしまったか。結婚よりも、こちらの方があたしには今一番響いている。


 というか、できちゃった婚しちゃったのか、あたしは。そういうのはないと思ってたんだけどなぁ。これも時代の流れか。七十億年経っているんだもん。でき婚も復婚も当然になる時代も巡ってきちゃってもおかしくないよね。


 まだまだお腹もでてないし、出産を考えるような時期でもなんでもないんだけれど、やっぱり、赤ちゃんを産むんだなぁ、ってことが、あたしの頭の中でぐるぐる回っている。


 そういえば、子供の名前はどうしよう。色々と候補は考えていたけれど、まだ全然定まってない。そもそも男の子なのか、女の子かさえも分かっていないわけで。


 今からでも考えておかないとなぁ。


 色々なことがそれこそ色々と押し寄せてきたけれど、なんだかんだであたしも今に馴染んできているのかもしれない。


 正直、結婚して出産とか、急に目の前に突きつけられてきちゃって、随分と加速がかっていて目が回りそうではあるんだけれども、それは言い換えれば、あたしはこの時代、この世界にあたしとして何かを残せているということだ。


 頑張った自分を誉めてやりたいところ。


 ふと思えば、ゼクのあたしに対する視線が妙に生暖かいのを感じていた。きっとそれはそういうこと。七十億年の時をすっ飛ばされてやってきたあたしへの気遣い。


 いよいよもって母親となるあたしへの慈愛の目。もうまもなくこの時代で自分の成すべきことを成せるだろうというゼクの安堵の眼差しに違いない。


 よりにもよって、危険な旅路に乗り込んできたり、あまつさえなんか拉致されちゃったり、おまけによく分からない国際問題にまで発展させちゃったり、ゼクの胃にサボテン流し込むようなことをしてしまったわけだけど。


 やっぱ、妊婦なんだから大人しくしておくべきだよね、普通は。なんともはや申し訳ない気持ちでいっぱいだ。ゼクを困らせてばかりな気がしてきた。


 ゼクには目一杯の感謝をしつつ、これからの人生設計についてを考えていこう。


 なんといっても、夫婦だしね。実感まるで沸かないけど、奥さんなんだもんね。何かの冗談みたいに思えてしまうくらいだ。


 七十億年前だったら、年齢的にもちょっと早いとか言われそうだし、今後の将来どうすんのと周囲から怒られそうではあったけども、まぁ、その当時でもあたしより年下で子供産んでる人もいなかったわけでもないし、何よりもう時代が違う。


 この時代、この世界であたしができること。それを全うしていこう。

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