ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ

性行為しなければ、人類は絶滅するらしい。
松本まつすけ
松本まつすけ

人類は絶滅してはならないのですか? (2)

公開日時: 2021年10月27日(水) 00:00
文字数:2,500

「僕の目的は、ここにいるゼクラさんを説得して連れて帰ることです」


 ズーカイは間違いなく、たった今、そう言ってのけた。


 どうしてこの場に、コードZの残党が俺たちと同行しているのか。その理由は大多数が分かっているはずだ。ズーカイという男は極めて諦めが悪い。


 かつて二十億年前に仲間として戦場を生き抜いてきた、数少ない信頼のおける者。それがこの時代に存命していると知ったのなら放っておく方がおかしい。


 ジニアも、ザンカも、そしてここにいるズーカイも、俺というかけがえのない男の帰還を待ち望んでいるんだ。


 俺としてはこのようにズーカイが食い下がってくることは予想できていたことだ。


 部外者、機械人形オートマタという立場でありながら、人類の保護区への同行という行為は、恐ろしく居心地の悪い思いをすると知っていて、尚も、俺を連れ戻すことだけを視野に入れて、このようにしてこの場にいる。


 俺を始めとして、無論反対意見も多かったのだが、むしろ下手をしたらズーカイも消し炭にされてもおかしくない対立関係でもあったのだが、こいつは押し切った。


 何故その様な強行が許されたのか?


 その答えはとてもシンプルなものだ。


 俺たちは宇宙を漂流していたビリアを保護し、惑星『フォークロック』へと送り届ける過程で、実に様々な規約違反を誤魔化し誤魔化し回避していた。


 明らかな不祥事。これが明瞭に表沙汰となると、絶滅危惧種保護観察員たちの地位が危ぶまれる。人類の繁栄の任務から外されるだけならまだいいが、いっそ逆に人類を危険因子として排除される可能性もあった。


 大きな要因はあのイレギュラー。ナモミがサンデリアナの王族親衛隊に拉致された一件だ。アレがピークの先にあったといってもいい。


 関係者各位が黙秘していればまだこの一件はなかったことにすることができる。


 そう、ズーカイはこれを交渉の材料として叩きつけてきたのだ。


 そうなってしまうと、例え根拠の成立しない詭弁であったとしても、俺たちは無視することができない。ズーカイの同行を拒否しきれなくなってしまったわけだ。


 この状況はあまりにも芳しくはない。俺個人の話であってもよろしくはない話なのだが、現在人類は絶滅危惧種として保護される対象となっている。


 現時点で生存が認められる人類で唯一の男は俺一人だけ。それはとどのつまり、俺が『ノア』を離れてしまうということは即ち、人類の繁栄が困難になる。


 勿論、ズーカイもそういったこちらの都合も汲んでいたし、無理やりにでも俺を勧誘するということにまでは至らなかった。


 ただし、そこに一つの可能性が出てきた。それは、あろうことかナモミのことだ。


 ナモミは今、妊娠している。もし、その子供が男であるならば、どうなってしまうだろうか。ああ、そうだ。俺が『ノア』に絶対的に必要ではなくなる、という理由付けがなってしまう。


 ズーカイも『ノア』ないし、俺たち人類ににある程度の協力や貢献を惜しまないことを誓い、一先ず生まれる子供が男なのか女なのか、それをハッキリと判明してから今後の話を進める。そういったシナリオになっていた。


 とはいえ、すぐに分かる話でもないし、そもそもナモミも妊娠が認められたばかりの段階。この『ノア』で換算してあと十日ほどは掛かるだろうという見込みだ。


 その間に、こちらとしてもズーカイを説得することを考えていた。仮に俺の子供が男の子だったとしても、まさかそのまま俺が『ノア』を離れるなんて道理はない。


 ズーカイもリスクは背負っている。しかしだからといって、『ノア』への滞在を希望してきたことはとてもじゃないが、あまり受け入れられた状況ではない。


 まして、今も尚、絶滅危惧種保護観察員たちの監視と実質的な脅迫が今まさに行われている。一歩でも、いや、指一本でも不審な動きを見せようものならば、その身は跡形も残らないほどの惨劇が襲い来ることだろう。


 だからというわけでもないが、本当に男の子だった場合でも、こちらは一方的にズーカイを事実上排除する手筈も整っている。


 心苦しいところだが、どんなにズーカイが食い下がろうとも、全くの無意味。


 少なくとも俺はズーカイをこの場に連れてくるまでに、俺が『ノア』を去ることは考えていなかった。


 だが。


 だが。


 だが。


 たった今、状況がひっくり返ってしまうような、そんな可能性が見えてしまった。


 それは言うまでもない。プニカのクローンのことだ。


 クローン法の改正にまで手が伸びているとは俺も予想できていなかった。今まさに目の前には何十人ものプニカが何の支障もなく、こうやって『ノア』で生活をしている。制約が掛かっているとか、そういうことはこの際、関係はない。


 俺は一体、何者だろうか。それは俺がよく知っていることでもあり、そしてズーカイもよく理解している。俺は人造人間という存在。それは人の細胞を遺伝子レベルから改造を加えて生み出された、かつて人類の最終進化形態とも呼ばれていた存在。


 ズーカイの目的は何か? それは俺を新たな戦力として確保すること。


 プニカは一体何をしたのか? クローン法に手を加え、製造許可を得た。


 そして、俺はどういう存在か?


 パズルのピースが超高速で組み上がっていくかのよう。


 ひょっとしたら、こういう考え方もできるんじゃないのか?


 俺のクローンを製造すれば、俺は『ノア』に残ることもできるし、ズーカイと共にあいつらの元に行くこともできる。


 オリジナルではなく、クローンのクローンであれば製造が許可されているとプニカは説明していた。いや、俺自身はクローンという枠組みにはないが、概念的な話をすると実は差異はない。


 基本的な能力の複写が可能な人工生命体という意味合いでは、俺はオリジナルの個体とは呼べない。何故なら、俺は提供された遺伝子情報を元に製造されているのだから。


 これはあくまで可能性。ただの可能性の話だ。


 俺はクローンではないということ、クローンに枠組みから外れるものであるということを明確化すれば、クローン法の改正の話もなかったことにすることができる。


 だが、聡明なズーカイが、この状況に気付かないわけがない。


 もしかしたら俺のクローンが作れるのかもしれない。そんな可能性に。

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