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護衛の方々はさすがにそのまま全員がぞろぞろと同行するわけではなく、数人ほどを周囲に残して、ほとんどが少し距離を置いたところから監視するような感じで護衛についてくれた。
中には空を飛んでるマシーナリーも何人か。
そりゃまあ考えてもみれば、これだけ縦横無尽に移動できる環境が整っているんだから地面だけじゃなく空を含めて全方位を見張る必要も出てくるわけだ。
それでも人員が多いことには変わりないのだけど。
「事前にエメラから話は伺っていたのではありますが、まさか本当に四名足らずとは我が輩も驚いたのであります」
「拙者としてはヒューマンが生き残っていたこと自体が驚きでござったが」
周囲を警戒しながらも、行く先を先導し、ジェダとネフラが言う。
「やっぱり人類って絶滅しちゃったの? 広い宇宙の何処かを探せば実はやっぱり生き残ってました、なんてありそうだと思うんだけど……。それこそあたしたちの存在が認知されてなかったみたいに」
素朴な疑問だ。
「渡航領域というものがあるッス。要は定められたテリトリーッスね。ここは厳正に監視されていて、何かが通れば大体は把握できるようになっているッス」
と、エメラちゃん。
「つまり、いくら広いといえど、領域が制約されている以上、無限に広がっているわけではないのであります。それらを踏まえて人類の観測情報が途絶えたので絶滅した可能性が高いのだと断定したのであります」
と、ジェダちゃん。
「特殊な超高圧電磁フィールドによって仕切られておりますから、許可無く領域を横断するとなると直ぐに察知され、場合によっては攻撃されることもあります」
と、プニー。
素朴じゃない答えが返ってきた。てか、なんでプニーがそっち側にいるの。
「うちら人類の渡航領域はもう大体決まっとるし、その領域の外ならまずいないと言ってもええやろな」
「ちなみに、もう何億年という単位でヒューマンがヒューマンの正規の手続きを持って渡航領域を超えたという記録は残ってござらん。時折領域を超えてくる瓦礫などもあるが、そういうものも引っくるめて監査局が調べ尽くしてるのでござる」
一般常識ってわけね。知らないのはあたしだけみたいだ。
「とはいえ、人類の渡航領域も狭いわけじゃない。俺たちが今まで観測されなかったことはそんなに不自然でもないってことだ」
優しく質問の答えをいただけたことには感謝するけど、話の半分も頭に入ってこないよ、ゼク……。
「大規模なコロニーや惑星の消失の確認、渡航や貿易等の記録の途絶え。これらの情報からヒューマンが活動している状態ではないという結論に至ったのであります」
「私には『ノア』以外のコロニーと接触した記録もありませんし、渡航や貿易などの記録が残っていないのも当然でしょう」
「それに、その情報自体も何百年も前ッスから、そこから何も復旧することもなく同じ状態のままなら誰だって絶滅したって思っちゃうッスよ」
「なるほど、ありがとう。よく分かったわ」
よく分からないということが、ね。
どうも人類にとっての宇宙は思っていたよりも狭かったらしい。
思えば、初めて『エデン』に来たときも、そして今日ここに来るときも、そういうテリトリーがどうとかといういかにも面倒そうな申請をやっていた気がする。
あれは人類の宇宙からマシーナリーの宇宙への途中にある検問みたいなものだったということか。
超新星だか何だか知らないけど、とんでもない大爆発が起きたなら遠くの宇宙でも観測くらいできるだろうし、コロニーが消えてしまったこともおおまかに把握できたに違いない。多分。
もしまともに人類が生存していたのならもっと活発な動きも見られたことだろう。それが何百年もなかったというのだから、まあ結論が何処に落ち着くかは分からないでもない。
相変わらずもスケールの大きな話で、あたしは頭が痛いよ。
「エメラ。おぬしはちゃんと観察員としての任務を全うしておるのでござるか? ヒューマンをただ見守るだけでは保護しているとは言えないでござるよ」
「ネフラも心配性ッスね。その点はバッチリッスよ」
「ご、ごめんね。あたしがちょっと無知なものだから……エメラちゃんは悪くないよ。むしろものすっごく助かってるんだから」
「あ、いや、別に拙者はおぬしを責めているわけでは……」
「ネフラはデリカシーのかけらもないのであります」
「おぬしにだけは言われたくないぞ、ジェダ殿」
緑の女の子三人組がやいのやいのと囃し立てる。なんだか仲がよさそうだ。
「えっと、三人は昔からの付き合いなの?」
そこまで言ってハッとする。そういえばエメラちゃんって一歳とかじゃなかったっけ。どんなに長くても一年も満たないんじゃ……。
「同じ『エデン』で生まれた仲間ッスよ」
「もうかれこれ九億年くらいの付き合いであります」
「いや、また八億と六千万年くらいではござらんかったか?」
「相変わらずネフラは細かいッスねぇ。神経質すぎッスよ」
あっはっは、と三者三様、笑い飛ばす。あれ? またこれあたしだけがよく分かってないパターンに入っちゃったりしてる?
「エメラちゃんってこの間、一歳とか言ってなかったっけ?」
恥を忍んでまた訊ねる。
「うん、そうッスよ。このボディに生まれたのはほんのつい最近のことッス。ボクは昇格したッスからね」
「エメラ殿。ヒューマンが戸惑った顔をしているでござる。おぬし、説明を少し省いているのではござらんか?」
「ぁー……」
エメラちゃんがフリーズしたみたいな顔をする。ごめん、本当にごめん。あたしが訊かなかったばっかりに……。
「おほん。我が輩たちマシーナリーはヒューマンの生命の観念が異なるのであります。ヒューマンは一つの生命体として生まれ、細胞の寿命が終えるまでを一生とするのでありましたな。しかしマシーナリーにはそういった寿命がないのであります」
「寿命が、ない……?」
「そうであります。厳密に言うと、ボディやデータを破棄し、何らかの理由で生産しなくなればそれが実質的な寿命といえなくもないでありますが」
ああ、そうか。機械の身体だからいくらでも作れるということなのか。
また認識がボケていた。エメラちゃんたちマシーナリーがすっかり人間に溶け込んでいたからロボット感が抜けていた。そういうことか。
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