翌朝、俺は九時にパチンコ屋に来た。
店が開くのは十時からやけど、この店では九時半に整理券を配る。そして其の整理券は先着順で配られてる。
今回の勝負の肝は、確実に目当ての台を押さえる事や。其の為には、一番に入店するのが必須条件。とろとろしとったら折角、仕掛けたイカサマも誰かに奪われてまう。
だから、俺は九時に来店した。
周りを見渡しても、俺以外は誰もおらん。今の所は予定通りやな。
煙草に火をつけた。シケモクやなくて、ちゃんとした新品(サラ)の煙草や。
煙草を吸うてると店から、若い男が出て来た。
「俺のやった煙草の味はどうや?」
「最高や!」
男の名前は久保川。此の店の主任や。
ほんで、俺の幼馴染みでも在る。
パチンコで確実に勝とうと思ったら、関係者に身内を作る事や。其れも、店側にバレらんやり方でや。昨日の夜、久保川の元を訪れて、今回の計画を説明した。今回限りと言う条件付きで、久保川は了解した。
「で、手筈は?」
「任しとけって。バッチリや。一番、右のシマ。七番台がそうや」
煙草を灰皿に押し付けて、俺は静かに笑った。
「ほな、稼がせて貰うで」
「ジャンジャン、稼いだってや!」
——パンッ。
ハイタッチの音が、鳴り響いた。
●
——十時。
いよいよ、開店や。俺は久保川に言われた台の元へ全速力で走った。
千円を入れて打ってみると、予定通り確変状態からのスタートになっていた。確変とは確率変動の略称で、文字通り大当たりがしやすくなっている。確変中でも玉が飲まれる現象が稀に見られるが、ほぼ確実に大当たりを引き当てれる。
朝のサービス台なんか、只の前日のスイッチの切り忘れなんかは知らんけど、朝イチから確変状態の台が極稀に存在する。
久保川に分け前を与える条件で、確変状態で台を置いておく様に説得したんや。故に今回の勝負に敗けはない。そして、店側にバレる可能性も殆どない。
早速、最初の大当たりを引き当てた。
大当たり図柄は3。
初当たりから確変や。
パチンコは奇数での大当たりが確変。偶数での大当たりで通常になってる。
確変で当たり続ける限りは、連チャンが続くんや。
煙草に火をつけて、勝利を噛み締めた。
●
結局、三十連チャンして、十六万二千四百円の金を稼ぐ事が出来た。
「じゃあ、分け前は約束通り、取分半分(トリハン)で良いな?」
「おぉ。八万も有ったら楽勝や!」
金を渡すと久保川は大事そうにポケットにしまった。
「お前、此れからどうするんや?」
「取り敢えず、適当に博打で稼ぐ。どっか良い賭場、知らん?」
「いやぁ。俺はパチンコぐらいしか、博打はせんから解らん」
「そうか。お陰で稼がして貰った。おおきに。今度、飯でも奢るわ」
「おう。楽しみにしてるわ」
久保川はそそくさと店に戻っていった。
さて、此の近くに確か胡散臭い雀荘が在ったな。もう一稼ぎして来ようか。
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