人生は娯楽や

81 MONSTER
81 MONSTER

公開日時: 2021年7月21日(水) 19:48
文字数:2,390

 深夜、一時過ぎ。


 煙草のカートンと酒とお好み焼きを手土産に、檀原公園に帰って来た。


「ただいま」


「おう、おかえり」


「兄さん、勝ったんか?」


「大勝ちや!」


 手土産を置いて、二人に十万円ずつ差し出した。


「兄ちゃん、何やこれ?」


「此れまでのお礼や。取っといて」


 在れから、雀荘で荒稼ぎして五十万円程、稼いだ。お陰で出禁を喰らったが、手元に約六十万の金が出来た。


 二人に十万円ずつ払っても、四十万円も残る。


「兄さん、こんなに受け取れんで!」


「せや。金が欲しいから、兄ちゃんの面倒見てた訳とちゃうで」


 金を突っ張ねるのは予想してたけど二人共、金は欲しい筈や。


「良(え)ぇねんて。ほんまに只の気持ちやから、気にせんと取っといて!」


「いや、其れやったら気持ちだけで良いよ」


「兄さん、其の金は大事に置いとき!」


 何や、ほんまに要らんのかいな。俺は渋々、金をしまった。


「ほな、酒と煙草とお好みは、貰ったってや」


 せめて、其れぐらいは受け取って貰わんと困る。


 二人共、変に遠慮してからに。恩返し出来へんやないけ。


「其れは、喜んで貰うっ!」


 師匠はワンカップを、一目散に取った。


「ワイ、お好み大好きやねん!」


 そら良かった。


 ——てか。何か知らんけど、向こうのベンチで教祖様が叫んどる。


 言葉にならん様な叫び声やった。


「あれ、大丈夫なん?」


 二人共、呑気にお好み焼きを突ついてる。


「たまに、あぁなるねん」


「心配せんで良(え)ぇから、放っとき」


 二人共、お好み焼きと酒に夢中で教祖様なんかどうでも良(え)ぇ様やった。


 まぁ、此の公園で叫んでる分には、誰の迷惑にもならんから良(え)ぇか。


「しっかし、久し振りに飲む酒は回るなぁ」


「おう。最近は、お供え物に酒とか置いとらんからなぁ」


「此の前なんか、空瓶を供えてるんやから、ほんまに罰当たりな奴もおるわ」


 供え物の酒飲んでるアンタ等の方が、よっぽど罰当たりやないか。


 俺もワンカップを開けて、一気に飲み干した。


「おぉ〜、兄ちゃん。良(え)ぇ飲みっぷりやなぁ!」


「兄さん、いける口やな?」


「当たり前や。チンポの毛が生える前から、飲んでるっちゅうねん!」


 酒はようけ買(こ)うてある。今日は、飲むで。


「そら、おもろいなぁ!」


「兄さん、今夜は寝かせへんで!」


「ワシも混ぜろぉ!」


「うわっ。びっくりしたぁ!」


 いつの間にか、教祖様が背後に来てる。


「ワシにも、酒くれ!」


「良(え)ぇよ、飲み」


 ワンカップを差し出す。


「えらい珍しいなぁ。飲み会に、参加するんかいな?」


 師匠は顔を茹蛸(ゆでだこ)みたいに赤くしていた。


 完全に酔うとんな。


「どういう風の吹き回しでっか、教祖はん。最近、調子良ぇらしいやん?」


 先生は酒強いんかして全然、酔うてないみたいやった。


「あぁ〜、アカンわ。眠となってきた」


 師匠は横になった途端、鼾を掻き出した。


 えらい寝るの早いな。


「君等。ワシの事、アホにしとるやろ?」


「してへん、してへん。ちょっと、変わってはるなって、思てるだけやんか!」


 やっぱり先生も酔ってるんかして、いつもよりテンションが高かった。


「其らそうと。君は何で、ホームレスなんかしてるんや?」


 いきなり、俺に話しを振ってくるとは思わんかった。


「ホームレスやない。俺は賭博師(ギャンブラー)や!」


「ほう。君、ギャンブル強いの?」


 教祖様は疑る様な視線を寄越す。


 嘗められたら、アカン。


「当たり前や!」


 先生は煙草に火をつけると、自信満々に此方を見た。


「兄さんは、相当な博才の持ち主や。昨日まで一円も持ってへんかったのに大金、稼いで来たんやで!」


 教祖様は頭を掻きながら一瞬、逡巡したのか思い付いた様に口を開いた。


「ほな。良い賭場、教えたろか?」


「ほんまに?」


「ほんまや」


 ——にやり。と、笑う教祖様を見て、以外と気の良いオッサンやないかと思った。多分、こんな感じで騙されて皆、信者になるんやろうな。


 まぁ、俺は信者にはならんけどな。基本的には自分以外、信じとらんから。


「但し、条件が在るねん」


 ほら、来た。


 大体、こう言う時は厄介な事、頼まれるパターンやねん。


 誰がどう考えても、厄介な事、頼む気満々の——にやり。やったんや。其れ以外、考えられんわ。


 漫画やゲームで言う処のフラグが立つ、言うやっちゃ。


 多分、次にはこう言うで。


「倒して欲しい奴がおる。——やろ?」


 驚く教祖様に、今度は俺が——にやり。ってしてやった。


「何で解ったんや?」


「賭博師(ギャンブラー)の勘や。オッチャン、バレバレやな!」


 煙草に火をつけてから、からかう様に笑ったった。


 ワンカップを開けて、教祖様に差し出す。


「まぁ、飲もうや?」


 博打の話しやったら、イニシアチブは俺が取らんとな。


 こんなオッサン一人、手玉に取れん様やったら賭博師(ギャンブラー)失格や。


「はい、カンパーイ!」


 カップ同士が擦れる音が、師匠の鼾に重なった。


 いつの間にか、師匠のソロから先生との二重唱(デュオ)に変わってる。全く、いつの間に寝たんや。


「で、相手は?」


「めっちゃ、強いで。君、ほんまに大丈夫やろうな?」


 余程、相手が強いんかして、教祖様は不安そうや。


「心配せんでも、任しとき。どんな相手でも、俺が倒したる」


「相手は警察やけど、大丈夫か?」


「はぁ? 警察? ——何や、眠たなってきたなぁ」


 そら、不味いわ。ポリ公に博打で勝っても、ロクな事にならんもん。前に一回、巻き上げたポリ公に逮捕され掛けた事、在る。


 煙草を咥えながら、横になる。


「おいおい、頼むでほんま……」


「捕まらん様に、ちゃんと手配してくれるんやろな?」


 紫煙を細く絞り出した。良い感じに酒が回り出してる。


 今寝たら、気持ち良いやろなぁ。


「そら、勿論や。軍資金(タネセン)の方もワシが用意さして貰う」


 ——アカン。


 ほんまに、眠たなってきた。


「ごめん。詳しい話しは明日、聞くわ。めっちゃ、眠い……」


 何か、ごちゃごちゃ聞こえて来たけど、俺の意識と一緒に微睡みの中に溶けてった。


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