水無瀬くんと御子柴くん

イケメン高校生ピアニスト×平凡ツンデレくん。恋人模様を描く、一話完結型の青春短編連作。
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12’:すぐドヤる癖やめろ

公開日時: 2021年3月9日(火) 22:00
文字数:989


「あんた、保健室でおイタとはやるじゃない」


 住宅街の狭い道を器用に運転するジェーンの隣で、俺はきょとんと目を瞬かせた。


「おいたって何?」


「あらやだ、とぼけちゃって。ついてたわよ、水無瀬くんのここに」


 ハンドルから片手を離し、ジェーンがとんとんと自分の首を突く。結局、おいたの意味は分からなかったが、言わんとしていることは理解した。


「あー、襟に隠れなかったかぁ。失敗、失敗」


「ほんと可愛くないわね、あんたって。ちょっとは照れたりしなさいよ」


「いや、今更?」


「ま、そっか。散々、恋愛相談に乗ってやってるものね」


 見慣れた風景がヘッドライトに浮かび上がっている。家まであと少しだ。


「で、どこまで行ったの? B? Bしちゃった?」


「ビーって何?」


「うふふ、カマトトぶっちゃって」


「さっきから何言ってるのかさっぱり分かんねーんだけど」


「あ、これもしかして全部死語か? ショック……」


 車が滑るように止まる。俺は運転席へ軽く手を挙げ、車を降りた。


「しっかり休みなさいよ。お医者さんにも行きなさい。後で、葉子さんか花枝さんにちゃんと確認するわよ」


「はいはーい」


 背中越しに手をひらひら振ると、ジェーンの声が尚も追いかけてきた。


「それとあんたの恋人。可愛いわね」


 足を止めて振り返る。俺は得意満面の笑みを浮かべた。


「だろ?」


「てめー、すぐにドヤる癖やめろ、ムカつく」


 低い声で捨て台詞を吐いて、ジェーンは去って行った。


 家の門をくぐると、白い毛並みのグレートピレニーズが走り寄ってくる。俺はしゃがんで首回りを撫でてやった。


「ただいま、クロ」


 何故白いのにクロかというと、本名がクロードだからである。ちなみに名付けたのはピアニストだったじーちゃんで、ドビュッシーのファーストネームが由来だ。


 短い石畳の向こう、家の玄関ががちゃりと開いた。ポーチライトの真下に、ショールを羽織った老婦人が立っている。俺は立ち上がり、手を振った。


「ただいま、ばーちゃん」


「おかえり、涼馬。ジェーンさんから具合悪いって聞いたけど大丈夫? 私、ご近所さんとお茶してたらすっかり遅くなっちゃって。電話に出られなかったの、ごめんね」


「へーきへーき。それより腹減った。メシなに?」


「ふふ、今夜はトゥリピツェを作ったわよ。クロアチア料理の」


「あはは、マジで何か全然分かんねー」


 後ろからついてくるクロードの足音を聞きながら、俺はばーちゃんの元へと歩み寄った。




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