名口市へ自力で行くとなれば、バスに乗る必要がある。
しかし、僕は交通機関が苦手なので、一人では行けない。それに、場所を聞いた所で、方向音痴だから辿り着けやしない。だから、エミナーの力を借りるしかなかった。
「なあ……お前、一人で何言ってるんだぞ」
「煩い ! 今は会話中だから、静かにして」
エミナーとの会話を邪魔され、僕はワンダに注意する。
ワンダはキョトンとして、僕を不思議そうに見つめた。どうやら、エミナーの声は、僕にしか聞こえていない様だ。はたから見れば、僕は一人で何かブツブツ喋っているやばい奴なんだな。
「……飛華流さんのお隣の、可愛いお嬢さんもご一緒に行きますか ?」
「あ……はい。この子も、お願いします」
「畏まりました。それでは、今からお二人を、弟さんの居る公園までワープ致しますね」
エミナーの言葉を耳にした数秒後。
僕らは気づくと、ビルの山脈に囲まれていた。
都会の中に、小さな公園がポツンとある。
ここが……名口市の公園か。
「目的地に到着しましたよ。それでは、私はこれで失礼します」
それだけ発し、エミナーは僕の脳に呼びかけるのをやめた。これ、帰りはどうするんだ ? さっきは、たまたまエミナーが僕らを見ていてくれていたから良かったけど。
「うおっ……ハテナ ? 場所が急に切り替わったぞ……どうなってるんだぞー」
ワンダは辺りをキョロキョロと見渡し、目を丸々とさせている。そうなるのも当然だよな。なんせ、ワンダは何も知らないのだから。
公園のベンチで、幼い男の子が横たわっている。その少年を、心配そうに眺めている小柄な少年が一人居た。
ベンチで眠っているのは、真誠だ。……という事は、あの背の小さな少年が、真誠を助けてくれたのか ?
「真誠だ……真誠ーーーー !」
僕は一目散に、真誠の元へ駆け寄った。
「真誠……どうしたの ? 何があったの ? 真誠……真誠ーー」
真誠の頭には、包帯が巻かれている。包帯には、血が滲んでいた。相当、傷が痛むだろう。僕が呼びかけても、全く目を開かない。
まさか、死んでないよな ? いや、だって、エミナーは無事だと言っていたじゃないか。
「真誠……起きてよ ! 何があったのか、教えてよー」
僕は、必死に真誠の肩を揺さぶる。
しかし、真誠は意識を取り戻す事はない。くっそ、僕が来るのが遅かったのか ?
「あ、あの……貴方は、この子の身内の方ですか ?」
「……あ、はい。僕は、この子の兄です」
真誠の側に居た、茶髪の小柄な少年に話しかけられ、僕はそう答えた。
「ああ……お兄さんなんですね。……実はさっき、この子がレッドアイに襲われていたので、俺らで助けたんです。その後、直ぐに治療して、今はぐっすり眠っています」
「そ、そうだったんですね。……すみません。あ、ありがとうございました」
本当に、こんな小学生くらいの少年が、レッドアイから真誠を助けたのだろうか。この、犬の様な顔をした少年が ? それに、俺らって誰だ……他にも誰か居るのか ?
「兄のくせに、随分と来るのが遅すぎやしねーか ? 俺達が助けなかったら、そいつは確実に死んでたぜ」
低い男性の声が聞こえ、僕はその方へ顔を向ける。やはり、もう一人居たのか。
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