「ね、ねえ……ワンダ。あれを見て ! 黒い影が見えるでしょ ?」
ワンダは僕の指差す先を見て、小さく頷く。
「あの影はね、永戸さんの体から出てきたんだ。……だから、僕はきっと何かあると思うの。今から、あの影を追いかけに行くんだけど……怖いから、一緒に来てくれないかな」
「おう、任せろ。あれ、捕まえるぞ。何なのか、確かめるんだぞ」
僕はワンダと手を握り、茂みを飛び出した。そして、踊る様に飛んでいる黒い影を追いかける。
すると、黒い影は僕らに気づたのか、こちらへゆっくりと近づいてきた。よく見ると、影には尖った角の様な物が生えていた。この影は、何らかの生物なのだろうか。
僕は恐怖を押し殺し、この謎の影に声をかけた。
「あ、あのさ……君、永戸さんの中に入ってたよね ?」
「へー、面白いねー君は。この姿の僕に、話しかけてくるなんて」
影は、聞き慣れた気味の悪い声を出す。この声や口調、永戸が気狂った時と全く同じだ。
「き、君は一体、何者なの ?」
「僕の事が、そんなに知りたいかい ? フッハハハハハハハー。良いよ……それなら、教えてあげる。僕はね、三島永戸の子供だよ」
影はそう言うと、手足を生やし、だんだん人間のシルエットになっていく。こいつの言っている意味が、全く分からない。それに、今の状況を理解できない。結局、こいつは何者なんだ ? 永戸の子供って、どういう事だよ。彼はまだ、未婚のはずだぞ。
「飛華流にワンダ……無事で良かった。ここは危険だ。お前達はもう、帰って良いぞ。スマイル団はほとんど、全滅してしまったからな……。俺も怪我をしてしまったから、お前達を守りきれない。……巻き込んでしまって、ごめんな」
秀は僕らに気づくと、優しく声をかけてきた。その様子を見ていた菊谷は、僕らを鋭く睨みつける。
「飛華流、どういう事なんだ ? どうして、敵のグループがお前にそんな言葉をかけるんだ ? まさか、イナズマ組を裏切るつもりで、こいつらと一緒にここへ来たのか ?」
これは、まずい。菊谷に怪しまれてしまっている。何とか言い訳をしないと、殺されてしまう。
「あ、それは……えっと」
慌てふためく僕を、秀がさらにピンチへ追いやる。
「どういう事だ ? どうして、イナズマ組が飛華流の事を知っているんだ ? 飛華流は、俺達スマイル団のメンバーだぞ。レッドアイに弟の命を狙われ、俺達と共に復讐しに来たんだ。……飛華流、そうだろ ? 飛華流は、イナズマ組の仲間なんかじゃないよな ?」
そんな、丁寧に説明しなくても良いじゃないか。これで、もう完全に誤魔化せやしない。それと、僕は自分の意思で入団した訳ではないぞ。
「そうか……永戸がお前の弟を襲ったんだな。それで、永戸を恨み、俺達を簡単に裏切ったと……。飛華流、俺は言ったよな ? 俺達を裏切るような事があれば、お前を敵とみなし、排除するって。覚悟は出来てるんだろうな」
「飛華流……お前、イナズマ組のメンバーだったのか ? それなら一体、お前はどんな気持ちで、暗殺計画を聞いていたんだ ? お前が奴らの仲間なら、迷わず処分するぞ」
菊谷の後に続き、秀も口を開いた。どうしよう。二人とも、僕の事を殺すつもりだ。こうなったら、本当の事を言うしかないか。
「あ、あの……実は」
「言い訳をしたって無駄だ。今からお前を排除する」
菊谷は、僕の話を遮った。そして、永戸を投げ捨てると、こちらへ歩いてくる。
駄目だ。殺される。僕はここで死んで、彼らの食料になるのか ? そんなの嫌だ。
ワンダの手を、僕は自然と強く握っていた。そうしたら、ワンダは僕の瞳を真っ直ぐに見て、こう言った。
「ヒル、大丈夫だぞ。俺、ヒル守る」
「グスンッ……ワンダ、ありがとう。……ごめんね」
どうして、こんな事態になってしまったのだろうと、僕は涙を流す。こんな事になるのなら、どちらにも所属するんじゃなかった。
ワンダは最後まで僕を守ろうとしているのに、僕は何も守れずに死んでいくのか……。
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