MARVELOUS ACCIDENT 未知の始まり 【訂正前】

闇で歪んだ世界
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09

公開日時: 2021年9月5日(日) 14:17
文字数:909


僕らは、一時間……二時間と、熱い戦いを繰り広げていた。そんな様子を、少女は少し離れた所から、じっと見つめてくるのだ。

 僕は少女の視線が気になり、ゲームを一時停止する。


「何だよ……逃げる気か ?」

「ごめんごめん。この子が暇そうにしてるから、何か貸してあげようと思ってね」

 僕は真誠にそう説明して、本棚から可愛らしい表紙の絵本を取り出した。

「はい、これ……良かったら、読んでみて」

 僕は少女に「孤独な宇宙人」と言う、絵本を渡した。この絵本は、僕が幼い頃から、今でも好きな物語だ。

 地球で迷子になった幼い宇宙人が、友達を作る為に人間に化け、生活して行くストーリー。思考や容姿が特殊だった為、虐められたり仲間外れにされる、宇宙人の悲しい日々が描かれている。これを読むと、かなり切なくなる。

 少女は日本語が分からないので、内容を理解する事は出来ないが、イラストもあるので、何となくなら伝わるかも知れない。


 僕らは再びゲームを始め、盛り上がる。その間、少女は絵本に引き込まれる様に、ひたすらページをめくっていた。気に入ってもらえて、良かったな。



「じゃあ俺、そろそろピアノのレッスンに行って来るな」

 午後五時を回った頃、真誠は習い事へ行ってしまい、僕は少女と二人きりになった。

 なんだか、落ち着かないな。さて、これからどうしようか。ママは、少女に日本語を教えてやれと言っていたし、絵本の読み聞かせでもしてやろうかな。


「それ、僕が読んであげるよ」

 僕はそっと少女の側に寄り、絵本を返してもらうと、物語を語っていく。それを、少女は一生懸命に聞いていた。


「トロリンは、周りの子供達から心ない事を言われ、とても傷つきました。どうして皆、僕を笑うのだろう。どうして皆、僕を嫌うのだろう……」

 絵本を音読していると、僕は自然と涙が出て来た。僕はこの宇宙人と、似た様な環境に居るんだ。

 一人で、寂しそうに夜空を見上げる宇宙人のイラストは、僕にそっくりだった。

 

 全て読み終えると、少女が僕の手に絵本を押し付けてくる。もう一度、読んで欲しいのだろうか。

 僕はその後、少女に何度も同じ物語を聞かせてやった。


「僕は皆と違うから、嫌われているんだね……トロリンは、悲しそうに微笑んだ」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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