「さーて、そろそろ頭と体を分裂させちゃおーっと」
永戸は黒也の首に長い爪を突き立て、ゆっくりと突き刺していく。黒也は痛ましい悲鳴を上げ、首からじわじわと血を流す。このまま、僕は黒也を見殺しにするのか ?
僕は魔女に大金を払ってまで、黒也を呪った。だから、気分良く彼の死を見届けるのが正しい。
けれど、何故だろう……。僕は、ワンダにひっそりとこう言ったんだ。
「……やっぱり、黒也君を助けるよ」
自分でも、どうかしてると思った。でも、なんだか僕らは、お互いを誤解している様な気がして……。もしかしたら、分かり合えていないから、こんな事になってしまったのかなって思ったりして……。
「ヒル、はてな ? あいつ、ヒル傷つけた。死ぬべきだぞ」
「……確かにそうだよ。僕だって、黒也君を許した訳じゃない。これは、僕が一人の人間である為にするんだ」
「……分かったぞ。俺、おとりになる。お前、ナイフ持ってる。それで、後ろからぶっ刺せ」
ワンダはそう言うと、永戸の元へ走っていく。僕もポケットからナイフを取り出し、永戸の背後へ忍び寄る。
永戸は黒也で遊ぶのに夢中で、僕らの事は気にもとめていなかった。それなのに、自分から存在をアピールしにいくなんて、馬鹿げている。逃げるチャンスは、いくらでもあったのに。
ナイフを握る手が、ガクガクと震える。本当に、僕なんかが永戸にダメージを与えられるのだろうか。ナイフで人を刺したことなんて、一度もないのに。
黒也の為に、僕らが命を落としてしまったら、とても馬鹿馬鹿しい。だから、そうならないように、意識を集中させなければ……。
ワンダは永戸の前に立ち、力強く言った。
「おい、赤目。俺、強い。俺と戦え」
「ん、おチビちゃん……また会ったね。こいつを殺したら、君の番だよ。それまで、待っててねー」
「駄目だ。今、俺と勝負しろ」
「フッハハハハハハ。分かったよ。それなら、君から壊してあげよう」
永戸は黒也を掴んだまま、ワンダの方に体を向けた。強気な発言をしていたワンダだったが、小刻みに震えている。彼に対する恐怖が、抑えられないのだろう。
ワンダのおかげで、僕は永戸に気づかれる事なく、彼に上手く近づけた。僕は勇気を出し、勢いよく永戸の背中にナイフを突き刺した。その途端、永戸は奇声を発する。
「うがぁーーーーーー。痛い痛い、やめろーーーーーー」
永戸の背中から、じわじわと血が溢れ出し、ナイフが赤く染まっていく。
これは、正当防衛だと自分に言い聞かせ、僕は何度も永戸の背中にナイフを刺した。返り血を浴び、僕のコートはどんどん汚れていく。
すると、永戸はもがき苦しみ、黒也を手から離した。そして、そのまま地面へ崩れ落ち、痛みから激しく暴れ狂う。
「ひ、飛華流……お前、凄いな。助けてくれてマジでありがとう」
黒也は驚いた表情をしつつ、僕に頭を下げた。ワンダが側に居る事を確認し、僕は黒也の腕を掴んで走り出す。
「ま、まだ油断は出来ないよ。レッドアイは、あの程度じゃ死なないんだ。あいつが動けないうちに逃げないと、捕まって殺されちゃうよ」
「そ、そうなのか。……飛華流って、あの化け物についてかなり詳しいな。それは、どうしてなんだ ?」
「え、えっと……僕は、普通の人が体験しない様な、不思議な事によく巻き込まれるんだよ」
僕はなんて説明したらいいか分からず、黒也の問いにそう答えた。黒也は、いまいち分かっていない様子だ。それも、そうだろうな。これは、恐らく僕だけが抱える悩みだろうから。
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