MARVELOUS ACCIDENT 未知の始まり 【訂正前】

闇で歪んだ世界
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02

公開日時: 2021年9月3日(金) 21:23
文字数:1,599



 地に落ちた枯葉を踏みつけ、僕は足早に校門を抜けた。

 涙をこぼさない様に、顔を上げよう。目の前には、今にも泣き出してしまいそうな空が、広がっていた。


 ポツリポツリと、悲しみを吐き出すかの様に雨が降って来る。それを見ていると、僕は泣いてしまった。

 僕の隣を、車の列が次々と走り去って行く。この列へ飛び込めば、僕は車に轢かれて死ぬ事が出来る。楽に、自由になれるんだ。

 だが、僕にはそんな勇気はない。それだから、中途半端に生きる事しか出来ないんだ。


 激しい雨に打たれ、傘もささず、ずぶ濡れになりながらトボトボと家を目指す。水溜りに移る自分の姿を踏み消し、俯きながら歩いて行く。

 



 ドスッ…… !



 前を見て歩いていなかったせいで、何かとぶつかった。僕はよろめき、転びそうになる。


「おいおい、兄ちゃんよー。どこ見て歩いてんの ?」

 誰かに声を掛けられ顔を上げると、赤金髪の奇抜なヘアーをした、柄の悪い少年が立っていた。彼も傘を持たず、体全体びしょ濡れだ。

 どうしよう。ヤンキーと出会って、怒らせてしまった。


「あっ…………」

 僕は直ぐに謝ろうとしだが、恐怖で声が上手く出せなかった。

「あーん ? お前……俺の事、誰だか分かってんのかー ?」

 少年はそう言いながら、ゆっくりとこちらへ近づいて来る。逃げようとすると、僕は彼に胸ぐらを捕まれてしまった。

 お、おしっこちびりそう。

 この人って、もしかして…… !


「この、イナズマ組の武寧陽翔ふねいあきと様を、知らねーとは言わせねーぞ」

 彼の言葉を聞き、僕は無事では帰れないと悟った。

 イナズマ組とは、地元でとても恐れられている、ヤンキーグループの事。適当につけられた様な、ふざけたグループ名だが、かなり危ない連中だ。

 頻繁に暴力事件を起こし、警察沙汰となっている。一番、関わってはいけない人間の集まりだ。


「ごっ……め、んなさい」

 僕は消え入りそうな声で、心から謝罪した。

「はあー ?謝って許される事じゃーねーぞ。なんたって、俺様に体当たりして来たんだからよー。土下座しろや !」

 陽翔あきとは意地の悪い笑みを浮かべ、僕の腹に拳を入れた。胃が潰れてしまいそうな痛みを感じ、僕は硬いアスファルトへ転がった。


「ほらほら、どうしたあー ? 土下座しろや ! ハッハハハー」

「ぐはっ…………」

 苦しむ僕を見て、陽翔は楽しそうに笑う。そして、足で僕の頭をグリグリと踏みつけてきた。

「ゆ、許して……下さい」

「クッハハハハー。俺様の強さを思い知ったかよー。この、クソガキがっ !」

 駄目だ。全く許してくれない。このままだと、頭蓋骨や脳みそが変形しそうだ。

 

下校中の生徒達が通り過ぎて行くが、誰一人として、僕を助けてくれない。皆、見て見ぬ振りをして足早に去ってしまう。

 住宅の密集した川沿いを歩いているのに、人通りが少ない。もしかすると、町の人々はこの道を避けているのかも知れない。


「なあ、兄ちゃんよー。金か命、どっちが大事だあー ?」

 陽翔は腰を屈め、僕の頭を鷲掴みすると、顔をこちらに近づけてそんな質問をしてくる。僕は、「い、命です」と即答した。

 すると、陽翔はピタリと足を止め、無邪気な笑顔を見せた。

「そうかあー。それじゃあ、罰金で勘弁しといてやるよー。財布出せや !」

 即座に鞄から財布を出し、僕は震える手で陽翔にそれを渡した。

「へー、なかなか持ってんじゃねーか。これは、俺様が全て貰ってやるよ」

 陽翔は、僕の財布から紙幣を抜き取ると、それをパーカーのポケットに入れた。そして、満足気な顔をして去って行く。その背中を睨みつけ、地に投げ捨てられ濡れた財布を、僕はそっと拾った。

 財布の中身は当然、空っぽだ。貯金していた五千円が、一瞬で消えてしまった。帰り道に、欲しかったゲームを買う予定だったのに最悪だ。


 この町は、いつだって危険に満ち、どうしようもない程に狂っている。

 ほら、今も遠くでパトカーのサイレンが鳴り響いている。また、どこかの誰かが悪さをしたのだろう。

 一宝町は、物騒な場所だ。


 

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