あれだけ心待ちにしていた冬休みが、気づけば終わってしまっていた。
今日は始業式。この場に、加藤先生と勢太の姿がない事に、僕は心がすっきりとしている。
僕は狭苦しい教室の中に座らされ、見慣れない顔をした男性教師の面を見ていた。
「ええ、皆さん……大変ショックな出来事なんだけど……。冬休み中に、加藤先生が亡くなりました。ええ……今日から私、石次がこのクラスの担任になります」
石次と言う先生の言葉で、生徒達が騒ぎ出す。
「え……まじで、加藤先生死んだの ?」
「お前、ニュース見てないのか ? 加藤先生は、遺体バラバラ殺人事件の被害者だぞ」
「……そうそう。遺体は、原型をとどめていなかったらしいわ。転がっていた首で、加藤先生だって分かったらしいからー」
「……ほら、勢太もレッドアイに襲われて、入院してるだろ ? 加藤先生をやったのも、あいつだって話だよ」
そうか。皆、知らないんだ。加藤先生が、どうやって殺されたのかを。それを知っているのは僕だけで、僕がそうさせたようなものだ。
「あーあ、飛華流が死ねば良かったのになー」
「黒也君 ! そんな事言わないでよ。飛華流君は、ちゃんと必要な子なんだから」
僕へ暴言を吐く黒也に、凛は注意してくれた。それに、僕を「必要」だと言ってくれた。美しくて綺麗で、凛は女神様みたいだ。
僕が、存在価値のない人間である事には変わりない。けれど、凛の言葉は素直に嬉しかった。
「はい……皆でね、亡くなった加藤先生に黙祷をしましょう。それでは……黙祷 !」
石次先生がそう言うと、騒がしかった教室が静まった。そして、僕らはそっと目を閉じる。
ケッ……笑わせるなよ。加藤先生に祈りを捧げるなんて、冗談じゃない ! あいつを死へ追いやったのは、この僕だぞ。
僕はただ、疲れた目を休ませているだけだ。決して、黙祷なんてしていない。
「このクソ教師 ! 僕の恐ろしさを思い知ったかぁーっ ! お前は僕に負けた……散々馬鹿にしていた出来損ないの生徒に、お前は簡単に殺されたんだ。クッハハ……悔しいだろう ? 恨めしいだろう ? ざまあみろ ! お前は地獄に落ちて、永遠に悶え苦しめぇーっ !」
僕は心の中で、加藤先生へそんな言葉を放った。
すると、とても気分が良かった。僕は思わず、口元を緩ませる。
「はい、黙祷終了 !」
石次先生の指示で、僕らは一斉に目を開ける。その途端に、生徒達は直ぐやかましくなる。
改めて加藤先生の居ない教室を見ると、心が晴れやかになった。溢れそうな笑みを隠し、僕は心で笑い狂う。
加藤先生……死んでくれてありがとう !
休み時間、僕は机に顔を伏せていた。
優は、無事に生きているだろうか。あの時、レッドアイを恐れ、優を置いて逃げてしまった事が心残りだ。
あの日……僕らは、体の傷が酷かったので、レッドアイに襲われた事を、家族に話した。それまで、イナズマ組と一緒だった事も説明した。
「もう、イナズマ組とは関わるな」
「でも……優さんは、僕らをレッドアイから守ってくれたんだ」
イナズマ組を強く嫌うパパに、僕はそう説明した。
しかし、パパの考えは変わらない。
優が危険な目に遭ったのも、全ては僕のせいだ。僕は人の役に立つどころか、周りに迷惑をかけてしまっている。どうしようもない、ゴミ人間だ。
ガヤガヤと騒がしい教室の中で、僕はウトウトし始める。このまま、永遠の眠りにつけたら、どれほど楽だろうか。そんな事を思いながら、僕はそっと目を閉じた。
数分が経ち、そろそろチャイムが鳴るだろうと顔を上げようとしたその時……。
バリーーーーンッ !
「キャーーーー ! 三島永戸が……三島永戸が、窓から入って来たーー」
窓の割れる音とともに、女子生徒の悲鳴が耳へ入ってきた。
僕は、体の震えを止められない。今の僕に、その人物の名前は恐怖でしかない。なんたって、彼に殺されかけたからな。……というか何故、永戸がこんな所に ?
「飛華流……ちょっと来い」
永戸が呼びかけてくるが、僕は聞こえないふりをし、そのまま顔を隠していた。だって、何をされるか分からないし。
だが、どうして僕がこのクラスに居る事を、永戸は知っているのだろう。他のクラスにもこうして現れ、僕を探していたのか ? それとも、窓から僕の姿を発見したのだろうか。
すると、僕は細い腕に体を掴まれ、そのまま宙に上げられた。永戸に、担がれてしまったのだ。
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