MARVELOUS ACCIDENT 未知の始まり 【訂正前】

闇で歪んだ世界
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第五章 深い絆で守られし秘密

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公開日時: 2021年9月16日(木) 17:33
文字数:1,752


あれだけ心待ちにしていた冬休みが、気づけば終わってしまっていた。

 今日は始業式。この場に、加藤先生と勢太の姿がない事に、僕は心がすっきりとしている。

 僕は狭苦しい教室の中に座らされ、見慣れない顔をした男性教師の面を見ていた。

「ええ、皆さん……大変ショックな出来事なんだけど……。冬休み中に、加藤先生が亡くなりました。ええ……今日から私、石次いしじがこのクラスの担任になります」

 石次と言う先生の言葉で、生徒達が騒ぎ出す。

「え……まじで、加藤先生死んだの ?」

「お前、ニュース見てないのか ? 加藤先生は、遺体バラバラ殺人事件の被害者だぞ」

「……そうそう。遺体は、原型をとどめていなかったらしいわ。転がっていた首で、加藤先生だって分かったらしいからー」

「……ほら、勢太もレッドアイに襲われて、入院してるだろ ? 加藤先生をやったのも、あいつだって話だよ」

 そうか。皆、知らないんだ。加藤先生が、どうやって殺されたのかを。それを知っているのは僕だけで、僕がそうさせたようなものだ。


「あーあ、飛華流が死ねば良かったのになー」

「黒也君 ! そんな事言わないでよ。飛華流君は、ちゃんと必要な子なんだから」

 僕へ暴言を吐く黒也に、凛は注意してくれた。それに、僕を「必要」だと言ってくれた。美しくて綺麗で、凛は女神様みたいだ。

 僕が、存在価値のない人間である事には変わりない。けれど、凛の言葉は素直に嬉しかった。


「はい……皆でね、亡くなった加藤先生に黙祷をしましょう。それでは……黙祷 !」

石次先生がそう言うと、騒がしかった教室が静まった。そして、僕らはそっと目を閉じる。

ケッ……笑わせるなよ。加藤先生に祈りを捧げるなんて、冗談じゃない ! あいつを死へ追いやったのは、この僕だぞ。

僕はただ、疲れた目を休ませているだけだ。決して、黙祷なんてしていない。


「このクソ教師 ! 僕の恐ろしさを思い知ったかぁーっ ! お前は僕に負けた……散々馬鹿にしていた出来損ないの生徒に、お前は簡単に殺されたんだ。クッハハ……悔しいだろう ? 恨めしいだろう ? ざまあみろ ! お前は地獄に落ちて、永遠に悶え苦しめぇーっ !」

 僕は心の中で、加藤先生へそんな言葉を放った。

すると、とても気分が良かった。僕は思わず、口元を緩ませる。


「はい、黙祷終了 !」

 石次先生の指示で、僕らは一斉に目を開ける。その途端に、生徒達は直ぐやかましくなる。

改めて加藤先生の居ない教室を見ると、心が晴れやかになった。溢れそうな笑みを隠し、僕は心で笑い狂う。


加藤先生……死んでくれてありがとう !



休み時間、僕は机に顔を伏せていた。

 優は、無事に生きているだろうか。あの時、レッドアイを恐れ、優を置いて逃げてしまった事が心残りだ。

 あの日……僕らは、体の傷が酷かったので、レッドアイに襲われた事を、家族に話した。それまで、イナズマ組と一緒だった事も説明した。


「もう、イナズマ組とは関わるな」

「でも……優さんは、僕らをレッドアイから守ってくれたんだ」

 イナズマ組を強く嫌うパパに、僕はそう説明した。

 しかし、パパの考えは変わらない。

 優が危険な目に遭ったのも、全ては僕のせいだ。僕は人の役に立つどころか、周りに迷惑をかけてしまっている。どうしようもない、ゴミ人間だ。

 

 ガヤガヤと騒がしい教室の中で、僕はウトウトし始める。このまま、永遠の眠りにつけたら、どれほど楽だろうか。そんな事を思いながら、僕はそっと目を閉じた。


 数分が経ち、そろそろチャイムが鳴るだろうと顔を上げようとしたその時……。


 バリーーーーンッ !


「キャーーーー ! 三島永戸が……三島永戸が、窓から入って来たーー」

 窓の割れる音とともに、女子生徒の悲鳴が耳へ入ってきた。

 僕は、体の震えを止められない。今の僕に、その人物の名前は恐怖でしかない。なんたって、彼に殺されかけたからな。……というか何故、永戸がこんな所に ?


「飛華流……ちょっと来い」

 永戸が呼びかけてくるが、僕は聞こえないふりをし、そのまま顔を隠していた。だって、何をされるか分からないし。

 だが、どうして僕がこのクラスに居る事を、永戸は知っているのだろう。他のクラスにもこうして現れ、僕を探していたのか ? それとも、窓から僕の姿を発見したのだろうか。

 すると、僕は細い腕に体を掴まれ、そのまま宙に上げられた。永戸に、担がれてしまったのだ。

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