少女は何故か、僕の事ばかりをじっと見ている。僕はその同年代くらいの少女に見惚れながら、どこか懐かしさを感じた。なんだか、前にもこの子と会った事がある様な、そんな気がする。
だが、僕はこの子の事を全く知らない。それなのに何故、そんな感覚があるのだろう。
いや、でも……この顔、何処かで見た事が……あっ、そうか ! 僕の描いている、漫画のキャラクターに似ているのか。だから、そう感じたんだな。
真冬だというのに、少女はノースリーブの紫なワンピースを着ている。小枝のように細い、腕と足を露出しており、見ているこっちが寒くなるよ。
落ち着きを取り戻したママは、少女に優しく話しかけた。
「あら、すごく可愛い子ねー。……どうしたの ? 迷子になっちゃった ?」
「ナコゾコノハテドキコ ?」
加工された様な機械的な声で、少女は謎の言語を発した。おい、嘘だろ ? それって、どこの国の言葉だよ。これでは、少女との意思疎通は難しそうだ。 辺りをキョロキョロと見渡す少女を前に、僕達は呆気にとられていた。
「え、えっと……日本語は分からないのかな ?
どうしよう」
「……んー、困ったな。警察に相談してみるか ?」
小さく首を傾げる少女を見て、パパは頭を悩ませているみたいだ。
「……でも、この子は飛華流のクローゼットから出てきてるし……それを、警察にどう説明するの ? そのまま正直に、子供部屋のクローゼットからいきなり出てきましたとでも言うつもり ?
そんなの、変人扱いされて終わりだよ。いや、誘拐して監禁してたんじゃないかって疑われちゃうかもよ」
「それもそうなんだけど……そもそも何で、この子が飛華流のクローゼットの中に居たのか考えないとね。こんな事、普通じゃあり得ないんだけどな……」
パパがそう言うと、ママは頭に閃いた事を目を輝かせて口にする。
「あっ ! もしかして……あのクローゼットは、どこか違う世界に繋がってるんじゃない ? それで、この子は何らかの原因でこっちに来ちゃったのよ。きっと、異世界から来たんだわ」
「……いやいや、そんな映画やアニメみたいな事が実際にあるはずないじゃん。……考えられるとしたら、飛華流がこの子を気に入って勝手に家に連れ込んで、普段はクローゼットに隠してたっていうのかな。それなら、無理な話じゃないでしょ」
自分なりの仮説を立て、パパはママにそれを話す。でもさ、それでは僕がただの変態な犯罪者じゃないか。我が子に、なんて酷い疑いをしてるんだよ。それに、パパの考えは外れているんだ。
「ぼ、僕はそんな事してないよ……僕は確かに、この目で見て聞いたんだ。急にクローゼットから、何かが落下した様な音がして……この子がそこから現れた」
僕の発言で、皆は黙り込んでしまう。そして、しばらくの沈黙の後、ママが口を開く。
「……飛華流もそう言ってるし、やっぱり異世界から来たんだよこの子」
「いや、そんな訳がない……まず、クローゼットから生き物が出て来るなんて事は絶対にあり得ないんだし……原因を突き止める必要があるでしょ。こうなったのには、現実的な訳が必ずあるからね。もっと、真面目に考えないと」
「……だけどさ、あの状況からして、クローゼットの中にこの子が降ってきたって可能性もきっとあるよ」
二人の会話に口を挟むと、僕はパパにこう言われた。
「……飛華流はもう、真誠と二階に行きなさい。この子をどうするのかは、二人が寝てる時にパパとママで話し合って決めるから」
「はい……分かったよ。真誠、行こう」
「いや、話し合うって……パパの言う通り、そいつの事は警察に対処してもらえば良いでしょ」
不満げな真誠を連れて、僕は温かいリビングルームを出た。だけど、二人の会話は廊下まで聞こえてくる。
「ねえ……今日はもう遅いから、家に泊めてあげようよ」
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