「ヒルに何するっ ! 死ねーーっ !」
ワンダは両手を上にかざし、何かをしようとしている。そんな、彼女の瞳はギラギラとしていてとても恐怖を感じる。普段の可愛く純な雰囲気とは、大きく違っていた。
僕に唾を吐きかけ、勢太はワンダの方に体を向けた。
「へー、弱くて女みたいな飛華流君の妹にしては、度胸があるな。……って言うか、尻尾と角のアクセサリーとかダサすぎ」
「馬鹿……お前、ヒルよりブス……きもい」
ワンダは勢太に怯む事なく、ストレートに言い返した。
「……ボロ雑巾にされてーみたいだね」
勢太はワンダに腹を立て、容赦なく殴りかかろうとする。駄目だワンダ……僕の為に傷を負わないでくれ。
本当はワンダを僕が守ってあげないといけないのに、怖くて体が動かない。僕は、なんて無力なんだ。
信じられない事に、ワンダの目の前まで迫ってきていた勢太が、いきなり宙へ浮き出した。彼は、徐々に地面から離れていく。
「はっ ? 何だよこれ……やめろー !」
パニック状態の勢太は、自分の意思で浮いている訳ではなさそうだ。 だとしたら、ワンダの仕業か ?
「メッダーゾー、メッダーゾー」
ワンダは謎の言語を発しながら、両手を空へ伸ばし続けている。
すると、勢太は空高く舞い上がっていった。そして、彼の姿はどんどん小さくなる。
屋根より少し高い位置まで勢太は飛んでいき、ワンダが手を下ろすと、そこから落下した。地面へ勢いよく叩きつけられ、勢太はそのまま気を失う。
「アハハッ……ありがとうワンダ。スッキリしたよ」
僕はそんな間抜けな勢太を、嘲笑ってやった。いつも、彼らクラスメイトが僕にそうする様にね。
だが、まだまだお前には苦しんでもらうよ。今度は、僕の手で呪ってやるっ !
僕を馬鹿にしたらどうなるのかを、たっぷり教えてあげるからね。
それにしても……ワンダは一体、何者なのだろう。さっきの彼女の技は、人間には到底不可能だ。だとしたら、ワンダは超能力者や魔法使いとか、そういった特殊な人間なのだろうか。
ワンダの謎は、深まるばかりだ。
いつもなら、学校で授業を受けている時間帯に、僕はのんびりと目を覚まし、大きなあくびをする。
時計の針は午前十時を回っているから、ママとパパはとっくに会社で働いているだろう。
学習机で少し漫画を描いた後、再びベッドへ転がり、僕は枕元に置いてあるゲーム機を手に取る。よし、カニコニ星の縄張りをどんどん広げ、宇宙最強になるんだ。
こうして、僕は宇宙ファイティングをプレイし、ゲームの世界へ入り込む。頼もしい仲間と共に、いろんな星を手に入れていく。それが、快感だった。
途中からワンダがやって来て、僕の隣にチョコンと座る。
「ヒル……それ、面白いか ?」
ワンダの問いに、僕は軽く頷く。彼女との会話は、それで終わりだ。
それから、二時間後……。
ピアノ教室から帰って来た真誠と、ゲームの通信を始めた。そんな僕らを、ワンダは無言のまま、じっと観察している。
「くっそ……何でいつも負けるんだ」
「それは、僕が強いからだよ。ただ、それだけ」
悔しそうな顔をする真誠に、僕は偉そうな発言をする。
「……ゲームなんか出来ても、何の役にも立たないからな」
真誠のストレートな正論に、僕は傷ついた。ゲームでは僕が勝つが、口では真誠に負けてしまう。
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