「次のおもちゃで遊ぶ前にー、このおチビちゃんの命を貰っておかないとなー。君は子供のわりに、強い方だったよ。だって……普通ならさ、もう死んでるはずだから」
「レ、レッドアイ……ついに、本性を現したな。やっぱり、お前はただの化け物だ。……俺は、死んでもお前を許さないぞ」
「おチビちゃーん、楽しかったよ。それじゃあ、バイバーイ」
永戸は楽しそうに笑って、秀にゆっくりと手を伸ばす。どうやら、左胸を狙っている様だ。爪を立て、何かを掴み取ろうとしている。まさか、心臓を抉り出すつもりだろうか。
秀、ごめんね。僕は、君を助けられない。真誠を、こんな恐ろしい悪魔から救ってくれて、本当にありがとう。どうか、天国でお幸せに……。
心の中で、秀への思いを言葉にしたその時っ !
「ほら、永戸……しっかりしろ ! 気をしっかり持て」
菊谷が背後から永戸を持ち上げ、繰り返し彼を力強く地面へ叩きつける。泥に血が染み込み、水たまりを紅に染めていく。
「ぐあっ、痛いよ痛いっ ! 僕に何するんだー。殺してやるからさ、その手を離せー」
「それは無理だ。お前がお前に戻るまで、俺は何度でも続けるぞ」
菊谷は躊躇う事なく、泥まみれになった永戸を叩きつける。やはり、力の面で言えば菊谷が一番の怪物だな。
秀は傷口を抑え、菊谷を睨みつけた。
「……何のつもりだ。俺を助けたって、俺はお前に感謝しないぞ」
「違う、お前を助けたんじゃない。こいつが狂うと、仲間にまで危害を加えるからな」
「……どうかしてる。そんな奴、仲間とは言えないじゃないか。お前達はどうやって、レッドアイを守ってきたんだ ?」
菊谷は動きを止め、秀に言った。
「……永戸が人を襲う姿を目撃した奴は、俺達が全員殺した。それで、永戸の殺した奴とまとめて、皆で食べるんだ。それで、完全に証拠隠滅してきた。だけど、永戸がメンバーを殺し続け、俺達の手には負えなくなったんだ。その結果、全てを隠す事が出来なくなっていった……」
「……意味が分からない。イナズマ組には、馬鹿しかいないのか ? どうして、自分達が犯罪に手を染めてまで、レッドアイを守ったんだ ? こんな事をせず、お前達がレッドアイを大人しく警察に渡していれば……。そうしていれば、奴による被害者をもっと減らす事が出来たのに。それに、俺達だって、人殺しをしなくて済んだんだ」
「どうして、永戸を守ったかって……それは、俺達は本当の永戸を知ってるからだ。永戸は、化け物なんかじゃない。永戸は、俺達の大切な仲間なんだ」
秀と菊谷が、ごちゃごちゃと言い合いをしていると、永戸の体からスッと黒い影が出てきた。黒い影はゆらゆらと舞い上がり、僕達から遠ざかっていく。
あ、あれは何だ ? まるで、生きているかの様に動いている。前にエミナーの手により取り出された、僕の心の闇の姿にどこか似ている。
僕の他には、誰もあの影に気づいていない様だ。僕が見逃せば、あの影の正体は謎に消える。それに、永戸が気狂ってしまう事と何か関係しているのならば、それを握る鍵を掴み損ねてしまうぞ。
さて、どうしようか。僕は、あの影の後を追うべきだろうか。 これは、影の存在に気づいている僕にしか、出来ない事だぞ。
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