辺りに転がる、仲間の変わり果てた死体を目にし、菊谷は発狂した。その姿は、般若や鬼よりも恐ろしい。それらが、可愛く思えるほどに。
「許さない、許さないぞーーーー ! 誰だ誰だ誰だっ ! 俺の仲間を殺した奴は……俺の居場所を破壊した奴は、どこの誰だーー ! 殺す殺す、殺してやるーーーー」
怒鳴り声を上げ、菊谷は地で生き絶えた魚を踏み潰す。菊谷を怒らせると、ここまで人が変わってしまうのか……。
「菊谷ー、菊谷ーー ! 見つけたぞー、ぶっ殺してやるーー」
「待て、ロッキー。こんな怪物を相手に、一人は無茶だ。俺も、協力させてもらおう」
頭から流れる血を抑え、ロッキーは菊谷の元へ走って行く。麗崇も力なく立ち上がり、ロッキーの後に続いた。
「待て、戦いを放棄するつもりか ? お前の相手は俺だ」
蓮はそう言って、ロッキーを止めようとする。
「おい、待てや。お前ごときがよー、菊谷さんの相手になる訳ねーだろ。大人しく、俺に殺されろや !」
陽翔は背後から、麗崇にハンマーを振りかざす。
「かかって来い ! 皆殺しだーー」
菊谷がそう叫ぶと、蓮と陽翔は動きを止める。そして、菊谷へ襲いかかる二人を、じっと見ていた。
ロッキーは勢いよく、菊谷に殴りかかる。菊谷が、大きく拳を振り下ろした次の瞬間……ロッキーは、目にも留まらぬ速さで飛ばされていった。
「ロッキー ! くっそ、よくもやってくれたな。この、醜い怪物め。俺の手により、滅ぶが良い」
麗崇は、菊谷に足蹴りを仕掛けた。菊谷は、その細長い足を掴み、麗崇をぐるぐると振り回す。そして、彼をそのまま放り投げた。
二人とも菊谷に一撃も与えられず、飛ばされていった。これが、イナズマ組のボスの力か。この戦場に居る、誰よりも強いだろう。
麗崇は地面へ激しく叩きつけられ、気絶してしまった様だ。陽翔に散々、ハンマーで攻撃されていたからかなり弱っていただろう。こうなるのも、無理はないな。
しかし、ロッキーは口から血を吐くと、よろよろと立ち上がった。そして、菊谷にこんな質問をする。
「おい、てめー、俺の事を覚えてやがるかー ?」
「お前は誰だ ? お前みたいな、野蛮な人間は知らない ! とても、不愉快だ」
「ちぇっ……大昔すぎて、覚えちゃいねーかよ。俺が野蛮ならなー、てめーはもっと酷い存在だ」
ロッキーは再び、菊谷へ殴りかかる。その拳は菊谷に届かず、彼は突き飛ばされた。
何度も崩れそうになりながら、ロッキーは立ち上がる。そして、再び菊谷へ襲いかかった。
「て、てめーを殺すのは……秀でも麗崇でもねー。絶対に、俺だーー」
「……それは違うな。お前が俺を殺すんじゃない。俺は死んでいった仲間の為に、お前らに拳を振るう。この組みのボスとして、俺がお前を殺すーーっ !」
菊谷は、ロッキーの頬に強烈なパンチを喰らわせる。
すると、ロッキーのサングラスが外れ、水たまりの中へ落ちた。
菊谷はロッキーの顔をじっくりと覗き込み、目を丸くさせる。
「そ、その目……。お前……もしかして、呂井煌斗か ?」
「違う……それは、昔の名前だ。今は、ロッキーだ」
ロッキーはサングラスについた汚れを、手で拭い取った。その直後、目を隠すかの様に素早くサングラスをはめる。
こちらからでは、ロッキーがサングラスを外した姿は見えなかったが……ロッキーは、目にコンプレックスでもあるのだろうか。
菊谷がロッキーの目を見て、彼の存在を思い出していた。……と言う事は、ロッキーの目にはかなりのインパクトがあるのだろう。
呂井煌斗とは、ロッキーの本名なのだろうか。
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