「お母さんは、決して体の強い方じゃなかった。それでも、寝る間も惜しんで、俺達の為に必死で働いていたんだ。だから、俺はそんなお母さんを支えたかった」
「お母さんお母さんって、お前はガキか。遅かれ早かれ、親はいつか死ぬ。俺が殺してなくても、そいつはお前より先にこの世から消える。自分の前から、嘘の様に綺麗さっぱり居なくなる。子供なんて置いて、勝手に楽園に行っちまうんだ。そんな、無責任な生き物なんだ」
永戸は、どこか感情的にそう言った。そんな永戸の言葉を聞き流し、秀は言葉を続けた。
「学校から帰ったら、宿題や勉強を済ませ、家事を手伝った。それに、二人の弟と妹の世話もした。俺なりに、お母さんの為にできる事は、全てやったつもりだ。それでも、子供の俺にできる事は限られている。働いてお金を稼ぐ事は出来ないし……。教育費もかかるから、俺はお母さんに負担をかけてしまっていた」
「…………」
悔しそうに語る秀を見ていた永戸は、黙り込んで彼に攻撃するのをやめた。そして、秀からの攻撃をかわし続ける。
「大人になったら、お母さんを幸せにしよう ! 一流企業に入って、出世して……稼いだお金を、全てお母さんと兄弟の為に使おう。毎日それを目標に、俺は頑張っていた。……それなのに、お母さんはお前に殺されてしまった。俺はお母さんに、恩返しが出来なかった。親孝行が出来なかった。俺の大好きなお母さんは、どこかへ消えてしまったんだ。……それも全て、お前のせいだーー」
秀は目を潤ませると、永戸の腹に頭から突進した。
「ぐっ……悪かった」
よろめきながら、永戸はその一言を発した。無抵抗な永戸を、秀はひたすら殴る。
「ふざけるなっ ! 謝って許される訳ないだろ」
「……本当に悪かった」
「俺は、このところずっと、お母さんの仇を討つ事ばかり考えていた。この日の為に、トレーニングをして力もつけた。……まさか、お前がここまで強敵だとは思わなかったが、必ず殺処分する !」
秀は、俺と同級生だとは思えない。親を殺した犯罪者を、ここまで追い詰められるなんて……。それに、この暗殺計画だって、中学生が考えられる様な内容ではない。敵を燃やし、撲殺するだなんて惨すぎるだろ。
たたずんでいる永戸は秀の攻撃を受け、だいぶ弱ってきている。このままいけば、永戸は秀に殺されてしまうだろう。
僕はこのまま、永戸を見殺しにして良いのだろうか。永戸は、僕が虐められている時に助けてくれた。僕を、気にかけてくれていたんだぞ。でも、秀だって、真誠を永戸から救ってくれたじゃないか。
裏切るとしたら、どちらを選ぶべきだろう。気狂いしたせいだとはいえ、真誠の命を狙った永戸か ? それとも、知り合ってそこまで間もない秀か ?
僕は一体、どうしたら良いんだ !
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