蓮は口元から流れる血を抑え、こう言った。
「菊谷はな……かなり変わっているが、心は子供の様に純粋な奴なんだ。そんなあいつが、人を傷つけて恨まれているとは、俺はどうしても考えられない。お前が教えてくれないと、何も分からねーんだ」
「てめー、どうしてかかって来ねーんだ ! 余裕こいてんじゃねーぞ」
ロッキーは、蓮の言葉を全く聞いてはいなかった。彼は蓮に向かって、大きく拳を振り上げる。
蓮は、ロッキーからの攻撃をかわし続けていた。彼からはまだ、一度も技を仕掛けていない。
「……分かった。もう良い。お前が俺達の敵だって事に変わりはないから、遠慮なく処分する。死んでいった仲間の為にも、悪いがそうさせてもらうぜ」
蓮の目つきが、ガラッと変わった。彼は、猛獣の様な鋭い目でロッキーを睨みつける。その瞬間、ロッキーは凄まじい速度で飛ばされていった。そして、巨大な岩に体を叩きつけられ、彼はその場に倒れてしまう。
あの一瞬で、蓮はロッキーに何をしたのだろう。目にも留まらぬ速さだったな。
ロッキーは決して弱い訳ではないが、相手が悪かったな。気狂った永戸を簡単に抑えてしまう男に勝つのは、至難の業だろう。
白煙が炎と共に、こちらへ迫ってくる。もう、ここに長くは居られない。それでも、彼らの戦いは続く。
「メッダーゾー、メッダーゾー」
「ワ、ワンダ……何してるの ? バレちゃうから、大人しくしててよ」
ワンダが両手を上げ呪文を唱え出したので、僕は咄嗟にその行為をやめさせようとする。
「あの火、邪魔……消すぞ」
だけど、ワンダは僕の言う事を聞かない。ここへ、連れて来るべきではなかったな。
「三島永戸 ! いや、レッドアイ……俺は、お前を一生許さない ! ここで、死んでもらう」
秀は永戸の前に立ち、小さな体を大きく張った。
けれど、永戸は秀に見向きもせず、頭上を見上げていた。
「何だ……あれ」
「おい、いい加減にしてくれ ! お前には、言葉も通じないのか ?」
「川が……空を飛んでる」
「お前は一体、何を……って、あ、あれは……何だ ?」
永戸の態度に腹を立てていた秀だったが、彼の視線の先に目を向けて硬直した。他のメンバーも、頭上を見て騒いでいる。
皆して、どうしたのだろう。一体、空に何があるというんだ ? 僕も、視線を上に向けてみる。
すると、僕らの頭上に、細長い水の塊が浮かんでいた。その中で、何匹もの魚が当たり前の様に泳いでいる。まさに、空飛ぶ川だ。これは、ワンダの仕業だろう。さっき、火を消したいと言っていたからな。 でも、だからって、川を運んでくるなんて大胆すぎる。
「ちょっ……ワンダ、どうするつもり ?」
「消す」
ワンダは、手を下ろす。それと同時に水の塊が急降下し、僕らを襲った。
氷の様に冷ややかな水が、一気に体中に染み渡る。真冬の川に飛び込む感覚と、似ているだろう。ワンダの奴、殺す気かよ !
僕とワンダは茂みの中に居るので衝撃は少ないが、彼らは川の水をまともに浴びている。下手をすれば、心臓麻痺が起こるぞ。僕も凍え死にそうだ。
燃え上がっていた炎は消え、地面で小魚達がピチピチと跳ねている。これが、ワンダの人間離れした力だ。奇想天外な彼女の行動には、毎回驚かされるな。
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