漆黒の空間に、一筋の眩い光が差す。それは、段々と大きくなり、僕を包み込んだ。
ここは……どこだ ?
広々とした部屋の真ん中で、幼い男の子がポツンと座っている。
ミニカーやおもちゃの銃、ゲーム機などが床に多く転がっていた。子供の遊び道具が、いくつもの可愛らしいボックスから、溢れ出している。まさか、ここは子供部屋なのだろうか。僕の家のリビングルームより、遥かに広い。
「この街を焼き尽くしてやるー。ガオーーッ !」
「スペースモンスター、ここに居たか。これ以上、お前の好きにはさせないぞ ! この、宇宙戦士である俺が、お前を成敗してやるーー」
整った顔立ちをした黒髪の男の子は、怪獣のフィギュアを左手に元気よく声を上げる。そして、右手に握る戦士のフィギュアと、怪獣のフィギュアを勢いよくぶつけた。
どうやら、男の子はお人形遊びをしている様だ。この子の周りには、ミニカーやドールハウスがいくつも並べられている。こうする事で、架空の街を作り、自分の世界に入り込んでいるんだな。
トントントンッ !
「永戸、入るわよ」
ドアをノックし、品のある優しそうな顔をした女性が部屋へ入ってきた。女性は、大きな紙袋を抱えている。
「お母さん、待ってたよ。ねえ、早くちょうだい」
男の子は満面の笑みを浮かべ、女性から紙袋を受け取った。さっき、この子は永戸と呼ばれてなかったか ? よく見れば、この子には永戸の面影がある。そうか、この子は幼い頃の永戸なのか。
僕は今、永戸の過去を見ているんだ。そう分かった時、天から全体を好きに見ていた僕は、永戸の小さな体へ吸い込まれていった。
永戸目線。
俺は、お母さんから貰った紙袋の中を確認する。新作のゲームに宇宙人のフィギュア、俺が欲しかった物が沢山入っていた。
「お母さん、ありがとう。でも、UFOのラジコンも欲しかった……」
「あら、ごめんなさいね。お母さん、知らなかったわ。今度お買い物する時に、買ってきてあげるわね。他に何か欲しい物ある ?」
「フィギュアとゲームがもっと欲しい」
お母さんは「分かったわ」と言って、俺に優しく微笑む。これで、満足だ。
お金持ちの家で育った俺は、欲しい物は全て買い与えられ、何でも手に入れる事が出来る。それに、一人っ子だから、親の愛情も自分だけのものだ。
この俺、三島永戸は世界一幸せな子供だった。家では両親からとても可愛がられ、なんでも俺の思い通りになる。
俺がどこかへ出かけたいと言えば、好きな所へ連れてってもらえる。ハンバーグが食べたいと言えば、食卓には必ずそれが並べられる。不満なんて、何一つなかった。
だが、一歩外へ出ると、そうはいかなかった。
保育園になかなか馴染めず、俺はいつも一人だった。友達なんていない。それが、どんなものなのかさえも分からない。
俺はただ、保育園でもやりたい事をしていただけだ。人気のおもちゃを隠し、独り占めしたり、時には奪い取ったり……。家に帰りたくなって、脱走した事もある。そんな事をする度、クラスの皆は俺から離れていった。
今日も、折り紙を折る時間に遊具で遊んでいたら、先生にビンタされたな。俺は何も悪くない。外の人間がおかしいだけなんだ。なのに、皆は俺のする事全てを否定する。それに、俺を嫌う。
まともな人間は、俺の家の中にしかいない。
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