アジトから、茶髪でクルクルなツインテールを靡かせた女性が姿を現し、こちらに向かって走って来る。
「永戸君、お帰りー。貴方の可愛い愛羅ちゃんが、ずーっと待ってたよ」
女性は永戸に飛びつき、彼の頬にキスをした。
「愛羅……やめろ。俺には、菜月がいるんだ」
永戸は不快そうな顔をすると、女性を突き飛ばす。
菜月とは、永戸の彼女か何かだろうか。こんな危険な人にでも恋人がいるなんて、おかしな話だな。
「もう、永戸君ったら……ってあれ、貴方は誰 ? ……もしかして、新入りさん ?」
女性はパッチリとした目で僕を見つめ、急接近して来た。ちょっと、近すぎるってっ !
愛嬌のある人懐っこい顔をした少女を前に、恥ずかしくなった僕は後退りする。
「えっと……新入りではないです」
「へー、お名前は ?」
「……ひ、飛華流です」
「飛華流君、宜しくね。愛羅ちゃんの名前は、可愛愛羅だよ。愛羅ちゃんって呼んでね」
愛羅と名乗るその女性は、ウインクをして可愛らしいポーズを決めた。何なんだこの人、日本語もまともに喋れないのか ? とても個性的な女の子だな。どうやら、イナズマ組には変人しかいないみたいだ。
「飛華流、こいつは相手にしなくていい」
永戸はそう言うと、僕の腕を引っ張ってアジトの方へ歩き出す。そんな、彼の冷たい態度に愛羅はムスッとして、どこかへ去って行った。
「もう、永戸君の照れ屋さん。後で寂しくなっても、知らないよ ?」
木に掛けられたボロいハシゴを、僕は永戸の後に続いてゆっくりと登る。足をかける度、ハシゴは軋んだ音を立てた。ここから落下すれば、大怪我では済まされないだろう。だから、慎重に進もう。
数十秒後、何とか無事に辿り着き、木製の建物の中に入る。その途端、小屋はキシキシと悲鳴を上げ、床が抜けてしまわないかと不安になった。
そこでは、床に腰を下ろし、二人の男性がくつろいで居る。そのうちの一人に、僕は見覚えがあった。
赤金髪の奇抜なヘアーをした、チャラい少年。彼はこの前、僕の金を奪った最低な人間だ。確か名前は……そう、武寧陽翔っ !
部屋の中は意外と広々していて、テーブルや椅子等のインテリアが全て木で手作りされている。この人達、僕より遥かに器用だな。
「おい、永戸……この俺様の休みを妨げちまったんだから、何か言う事があるんじゃーねーの ?」
「優、前に話してた奴、連れて来たぞ」
永戸は陽翔をガン無視し、もう一人の金髪な男に話しかけた。
「おー、そこの可愛い顔をした兄ちゃんか。よし、それなら自己紹介しねーとな。俺は、高木優だ。宜しくな」
明るく元気な背の高い少年は、僕に優しく声をかけてくる。少し怖い顔つきをしているけど、見た目よりも良い人そうだ。性格と名前がマッチしている感じがする。
「ひ、飛華流です。宜しくお願いします」
「そんな、堅くならなくて良いんだぞ。何たって、ここは自由の楽園だからな」
緊張する僕に、優はニコニコと笑いかけ、再び口を開いた。
「飛華流って何歳 ?」
「えっと、十三歳です……」
「へー、永戸の三つ下かー。因みに俺は、お前の五つ上だぞ」
「そ、そうですか……」
反応に困り、僕はぎこちなく頷いた。そんな事は正直どうだって良いから、早く帰りたいな。
「おい、永戸……何、無視してんだよ ! 俺様にそんな無礼な態度を取ったら、土下座じゃー済まされねーぞ」
厄介な陽翔に、永戸は呆れた顔をする。
「ピーピーうるせーな。お前は邪魔だ……大人しくしてろ」
「舐めてんのか ! お前は俺の後輩なんだから、敬語使えや」
陽翔は永戸に吠えた後、グレーの鋭く大きな瞳で僕を睨みつける。
「ほら、お前もぼさっと突っ立ってねーで俺様に挨拶しろや」
「ご、ごめんなさい……失礼します」
僕は消え入りそうな声を出し、陽翔に深々と頭を下げた。
「本当に、礼儀がなってねーな。俺、お前の事ちゃんと覚えてるんだからな。この俺様に突進して来た、無礼なチビ野郎がよー」
陽翔の発言に、僕は腹が立った。それなら、僕だってお前に財布の中身を全て抜き取られた事を、しっかり覚えているぞ。
「まあまあ、陽翔さん……それくらいにしといてやって下さいよ」
「あーん ? 優、お前……この俺様に命令するとは、良い度胸じゃねーかよ」
優が陽翔に注意すると、彼はまた面倒な言葉を吐き出した。はあ……本当に、陽翔は嫌な男だな。
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