永戸は一瞬で、百メートル近く離れた少年に追いつき、彼に飛び蹴りをした。蹴りをくらった少年は空高く舞い上がり、勢いよく地面へ叩きつけられる。
「お前の心臓、この手で握り潰してやるよ」
グラウンドに倒れ込む少年を見下ろし、永戸は右手をかかげ、心臓を握り潰すジェスチャーをした。その言葉や動作には、深い恨みが込められている様に思えた。
片目を茶髪で隠す、あどけない顔をした少年。これが、誰もが恐れる、三島永戸と言う人物なのか。
少年は怯えながら、永戸にこう言う。
「えっと、さっきは酷い事を言って、ごめんなさい。あれ、冗談ですからね ? いやー、イナズマ組って、カッコいいですよね。俺、憧れます」
「ごちゃごちゃうっせーな」
狼の様な鋭い瞳で少年を睨みつけ、永戸は彼を踏みつけた。
すると、少年はビクとも動かなくなる。
「後一人……あいつはどこだ」
永戸は辺りを見渡し、誰かを探し始める。
「……なあ、永戸は誰を探してんだよ」
「イナズマ組を馬鹿にした奴だろうな」
「何人かの生徒が、集団になって永戸に暴言を吐いたんだって」
「そうそう。それで、ホームレスって言ったりして、永戸を嘲笑ったらしいよ」
「えっ ? あいつって、ホームレスなの ?」
「……まあ、そんなもんだろ。イナズマ組は一宝町にある、あの大きな森の奥で暮らしているからな」
生徒達のひそひそ話に、僕は耳を傾けていた。へー、そうなのか。
「それにしても、命知らずよね。あんな恐ろしい奴を刺激したら、こうなるって分からなかったのかしら」
「まあ、イナズマ組のメンバーに手を出したのは、いつもヤンキーぶってる奴等だからな。集団になれば、永戸一人くらいは楽勝だと思ったんじゃねーの。あいつらも、本物のヤンキーには勝てなかったって訳だ」
「なあ、あれ見ろよ ! ついに、先生の出番だぜ」
筋肉質で大柄な教師三人が現れ、永戸に近づいて行く。三人の教師は皆、体育会系だったり、柔道部の顧問だったりと、力はかなりあるぞ。
どっちが勝つのだろうと、僕は少しだけ興味が湧いた。バトルやアクション要素のあるアニメが、大好きだからな。
「おい、いい加減にしなさい」
「こんな事をして、許されると思うなよ」
「大人しく謝罪しなさい」
そしてついに、三人の教師が永戸の前に立ちはだかった。
「ちっ、邪魔くせーな」
永戸は舌打ちをし、堂々たる足取りで教師達に接近する。そして、ハイジャンプして、自身の頭を相手の頭に叩き込んだ。
「すげー……あいつ、ヘッドバッドした」
そんな神業に目を輝かせる男達も、ちらほらいた。
頭突きを食らった教師は、呆気なく倒れた。
「おい、お前……自分が何をしたのか分かっているか」
「次はお前だ」
永戸は一人の教師に、目にも留まらぬ速さで急接近し、彼の腹部に数発蹴りを入れた。膝から崩れ落ちる巨漢を両手で持ち上げ、永戸は最後に残った教師にこう言った。
「これで、終わりだ」
「や、やめなさい !」
後退りする教師に、永戸は巨大な男を投げつけた。数メートル飛ばされ、教師は一瞬で気絶する。どれも、人間業じゃなかったな。
「弱いくせに、偉そうに威張ってんじゃねーし」
永戸はそう言って、再びある生徒を探し始めた。まさか、こんな簡単に済ませてしまうとは思わなかったな。やはり、三島永戸は化け物だ。
「……そこか」
永戸は一本の木の前で足を止め、地に転がっていた小さな石を手に取った。そして、ピストルの様な速度で、それを木の上の方へ投げる。
「うあーーーーーーっ !」
叫び声を上げ、木から人が落下してきた。彼は頭から血を流し、痛そうにもがいている。その様子を見ると、永戸は満足気な顔をした。
数分後、救急車とパトカーのサイレンが聞こえ始め、こちらに近づいて来る。
だが、永戸は慌てる様子もなく、平然と去って行った。きっと彼は、こんな事慣れっこなのだろう。
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