窓から四つの小さな影が放り出され、硬いアスファルトへ叩きつけられる。それは、幼い子供達だった。子供達は、気を失ってしまっている。
「弱い奴、傷つけるな !」
ワンダは立ち上がり、倒れている子供達の側へ寄った。そして、窓から出てきた永戸を、睨みつける。ワンダは、子供達を守ろうとしているのだ。
だが、僕はただ震えているだけで、無力でしかなかった。自分より小柄な女の子が、悪魔に立ち向かっているのに……それなのに、僕は一体、何をしているんだ。
「ほら、邪魔をしないでよー。安心しな……君の事はちゃんと、後で殺してあげるからね。順番だよ順番」
「ふざけるなゾ ! 命……大切。奪うの駄目だぞ」
ワンダは永戸に強く言い返し、両手を上へ真っ直ぐに伸ばす。前に勢太を倒した時のポーズだ。永戸を、空中へ上げるつもりだろう。
しかし、永戸は手に持っていた椅子をワンダに投げつけ、彼女の攻撃を阻止する。椅子とともに数メートル飛ばされ、ワンダは地へ転がった。
次に子供達に目をやると、彼らは肉の塊にされており、原型をとどめていなかった。
「ふふっ……次は、君の番だよ」
永戸は、一瞬で僕の目のまでやって来た。抵抗する間もなく、永戸に首を掴まれて僕はそのまま持ち上げられた。苦しいし、呼吸が上手く出来ない。
殺される。まだ、死にたくない ! 怖いよ……助けてーー。
「うあっ……」
首に刃物でも刺さった様な、激痛が走る。永戸は尖った爪で、僕の首を刺していた。そして、首から流れる血を見て、楽しそうに笑っている。
僕は、このまま死ぬのだろうか。どんどんと、永戸の爪が僕の首へ深く刺さっていく。首がもげるのも、時間の問題だろう。
もう、痛いのかさえも分からなくなる。感覚が麻痺しているのかな。
「飛華流に何するんだーー ! お前、いい加減にしろよーーーー」
優の怒鳴り声と同時に、永戸は僕から手を離し、視界から消えた。そのまま崩れ落ち、永戸に殴りかかる優の姿を、僕は潤んだ瞳で眺めている。
優に突き倒されて流れて頭から流れた血を、永戸は舌でペロリと舐めた。
「あー、分かった……分かったよー。先に死にたいなら、君から殺してあげるねー」
「本当は、お前とは戦いたくなかったな……。だけど、大切な俺の可愛い後輩を傷つけるなら、容赦しねー」
優は永戸の顔に何発も拳を入れ、彼を勢いよく蹴り飛ばした。僕達の為に、そこまで必死になって戦ってくれるなんて……なんて、彼は良い人なんだ。
きっと、優はさっきまで本気が出せずにいたんだ。仲間である永戸を傷つける事に、抵抗があったから。
けれど、今は全力が出せているはず。さっきから、永戸は優の攻撃を食らってばかりだし、口から血を垂らしているからな。この調子でいけば、優は永戸に勝てるはずだ。
「ヒル……大丈夫か ?」
ワンダがフラフラしながら、僕の方へやって来た。
「うん……僕は何とか。それより、ワンダこそ大丈夫 ?」
「俺、強い……元気だぞ」
いつもの調子で強気な発言をするワンダに、僕はホッとした。
「フッハッハッハッハーー。君って馬鹿だねー。呆れるほど馬鹿だねー。まさか、僕がこの程度だとでも思ったの ?」
「……え ? そんなに強くて、まだ手加減してるとでも言うのかよ……」
「フッハハ……当然だよー。僕はまだ、ほんの少しの力しか出していないのさ。……でもね、僕に傷をつけてくれた君には、特別に全力を出してあげるから、安心してね」
永戸の言葉に、僕は衝撃を受けた。それは、恐らくワンダも優も同じだろう。僕らは今まで、永戸に遊ばれていただけだったのだ。
つまり、僕らを待っているのは、「死」のみだ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!