意味のない攻撃を続けながら、永戸は言った。
「お前は悪魔なんだろ ? 人間として生きるなんて諦めろよ。悪魔がどこで暮らすのか知らねーけど、魔界かどっかに帰れ。もう、勝手に俺の体を借りんな」
「フッ、魔界 ? 僕は確かに悪魔だけど、特殊な生まれ方をしてるから……そこには行けないよ。普通の悪魔とも違うし、帰る場所もないのさー。それに、君は僕の唯一の親だ。仲良くしようじゃないかー。……パパ、僕はね……エモって言うんだよ。だから、これからはエモって呼んでね」
エモと名乗る悪魔は、どこか悲しげな笑みを浮かべた。そんな彼の表情を見て、永戸は拳を下ろす。
「エ、エモ……居場所は自分で見つけるものだ。お前は人として生きる事を諦めて、そのままどこかでフラフラしてれば良いだろ。俺はお前のせいで、首に賞金をかけられて、命を狙われてんだよ。お前を恨んでる。でも、俺の前から消えてくれるなら……見逃してやる」
「パパ……無理だよー。僕は、パパからは離れられない。だって、僕はずっとこの姿では生きられないのさ。消滅しちゃうからねー。だから、普段はパパの体に閉じこもってるんだよ。そして、パパが怒った時に黒い感情に引き寄せられ、自然に僕とパパが交代するのさ。まあ、好きな時にパパの体を乗っ取れるけどね。こんな、窮屈な生活を一生続けるのはごめんだから、僕にふさわしい体を探してるのさ。でも、どれもイマイチで気に入らないんだよー。気に入らない人間は皆、僕のおもちゃとして遊んであげてるけどねー」
エモの言葉で、僕はなんとなく理解する。永戸が怒ると、気狂いやすい訳も分かった。それに、気狂った永戸が次々に人を殺してしまう原因も、知る事が出来た。
「……アジトの地下に、食料用の死体が残ってたはずだ。贅沢言わずに、そこから好きな体を選べ。そうすれば、お前は人間になれるんだろ ? 地下が焼けてなかったらの話だけどな……」
永戸はそう発し、エモから目を背ける。彼は被害者だとは言え、自分が孤独な悪魔を作り出してしまった事に、責任を感じているのかもしれない。あやふやな存在として生まれた悪魔も、被害者なのかもな。
「嫌だね。僕が死体に入れば、完全にその姿で一生を過ごす事になるんだよー。僕が今まで殺した人間は、全部ただのおもちゃだ」
「エモ……わがまま言うな。俺はこれ以上、人殺しなんかしたくねーし」
「パパ、僕を名前で呼んでくれて嬉しいよ。でもね、本当は親である君が、僕に名前をつけてくれないといけなかったんだよー。それに、勝手に僕を生んでおいて邪魔者扱いするなんて、酷いよねー。君は僕の親なんだから、僕にふさわしい体が見つかるまでは、共に生きてもらうからねー」
エモはエモなりに、永戸に対して思う所があるのだろう。永戸は、黙り込んでしまった。きっと、彼はエモに申し訳なく思っているのだろう。
「し、信じられない。レッドアイの体から、生き物が出てくるなんて……。幻覚でもないらしい。あいつが、俺のお母さんを殺した犯人……なのか ? だったら、俺が処分しないと」
秀は立ち上がろうとするが、何度も崩れ落ちてしまう。なので、地を這いずりながら、エモの元へ向かっていた。
「あれが、永戸を狂わせていた悪魔なのか。早くなんとかしないとな。……飛華流、お前を殺すかどうかは後で決める」
菊谷は、悪魔の方へ走っていく。このまま、僕の事を忘れてくれないかな。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!