「えー、この兄ちゃん誰ですか ? どうして、倒れているんですか ? どうなってるんですか ?」
洞窟へ入って横たわる少年を見るなり、優が騒がしく声を上げた。そんな彼に、俺は事情を説明する。
「……優、静かにしてやってくれ。この子は、見ず知らずの子だが、弱って倒れていたから、助けてやったんだ」
「……そうですか。それなら……目を覚ますまでは、そっとしてやった方が良いですね」
優はそう言うと、少年の青白い額をそっと撫でた。高木優……この子は、ここのメンバーの中でも、かなり人思いな良い子だ。
優に限らず、俺はメンバーの一人一人を理解しているつもりだ。なんたって、イナズマ組のボスだからな。
そうして、俺はメンバー達と共に、眠る少年をずっと見守っていた。
しばらくして、少年はパッと目を開いた。
「……大丈夫かい ? 君に一体、何があったのかを教えてくれないか ?」
「うっ…………」
少年は俺の問いに答えず、よだれを垂らしながら、ある方向をじっと見ていた。その視線の先には、俺が先ほど盗んできた、山積みの食料がある。そうか、お腹が空いているんだな。
俺は買い物カゴを少年の隣に置き、一本のにんじんを彼に渡した。
「……これ、食べるか ?」
「ううっ……」
少年は震える手でにんじんを掴むと、すごい勢いで噛り付いた。
「よく噛んで、ゆっくり食べるんだぞ。喉に詰まると、大変だからな」
少年は体を起こし、買い物カゴに手を突っ込む。そして、その中からじゃがいもを取り出し、乱暴に口へ運んだ。俺の言葉なんて、全く聞いていない様子だ。
「おい……てめー、勝手に盗み食いするんじゃーねーよ ! いい加減にしろやー」
かなりのペースで、カゴの中の食料を次々に食べていく少年を、陽翔は睨みつけた。
「陽翔、良いんだ……。好きなだけ、食べさせてあげよう。相当、飢えていたようだからな」
そうは言ったものの、本当は食料が減っていくのはこちらとしても苦しい。陽翔も、それを理解しての発言だったに違いないな。
カゴの食料を全て平らげると、少年はスッと立ち上がり、こちらに顔を向けた。今までの魂が抜けた様な表情とは違い、少年は敵意に満ちた表情をしている。
「ちっ、お前ら誰だよ……何、じろじろ見てんだ」
「あーん ? 何だーてめーは……人に助けてもらっといて、その態度かよー」
「……は ? お前、誰だよ……ごちゃごちゃうるせーな」
少年は鋭い瞳をし、陽翔に殴りかかった。
「こらこら、落ち着けよー。暴力は良くない」
俺は、直ぐに少年を押さえる。この、細身な体からは考えられない程の力で、少年は俺の腕を振り解こうと、暴れている。彼は、俺や蓮ほどの力は無いが、陽翔や優よりかは強いだろう。
「うるせーし……離せよ ! そんな目つきで、俺を見てんじゃねー。……どうせ、お前らも俺を嘲笑いに来たんだろ……」
「……俺達が君の事を、馬鹿にして笑うはずがない。君に何があったのかは知らないが、俺達も……人に誇れるような生き方はしていないからな」
俺の言葉に少年は動きを止め、大人しく黙り込んだ。よし、互いに理解し合えるチャンスだ。俺はそう思い、再び口を開く。
「俺達は、君の敵ではない。……だから、君の事を教えてくれないか ?」
「……俺は、三島永戸。腹を空かせながら、この辺りを彷徨ってる」
「……つまり、ホームレスという事か。俺達と同じ様なものだな。……因みに、いつからこんな生活をしているんだ ? 親はどうした ?」
「……あれから、一年くらい経ったと思う。……俺に、家族なんていねーよ」
永戸と名乗る少年は、ため息混じりにそう言った。
永戸と家族の間に、一体何があったのだろう。何故、ホームレスになったのだろう。そんな事を疑問に思い、永戸に尋ねてみたが、彼は自分の過去を決して話そうとしなかった。どうしても、知られたくなかったらしい。よほど、辛い事があったのだろう。
そんな、行くあてのない永戸を、俺達は仲間として迎い入れる事にした。「世の中に居場所がない」と言う共通点から、仲間意識を持ったのも事実だ。
そして、永戸はイナズマ組の一員となった。
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