ワンダと共に、数十分くらい住宅街を走っていると、少し離れた所に二人の姿を見つけた。
二人の足元に、血塗れの人が倒れている。まさか、彼らが殺ったんじゃないだろうな
「ここから、少し様子を見よう」
「……良いぞ」
駐車していたトラックの後ろに隠れ、僕らは二人を観察する事にした。
「きゃーーーーーー ! 誰か、助けてー」
通行人のおばさんが、永戸の顔を見るなり、青ざめた顔をして悲鳴を上げ、彼から離れていく。永戸に、かなり怯えている様だ。こちらからは、永戸の背中しか見えないな。
「ちぇ、永戸の野郎……また気狂ったか。まあ、あの腐った女の始末は、この武寧陽翔様に任せるんだなー」
「陽翔さん、来てくれてありがとうございます ! そっちはお願いしますねー」
優の視線の先を見ると、住宅の屋根の上に、赤金髪の少年が立っているのが分かった。あれ、いつの間に ? 陽翔はこんな所で、何をするつもりだ ?
屋根から飛び降り、陽翔はおばさんにナイフを向けて接近する。その姿は、殺気に満ちていた。恐怖に満ちた瞳をし、おばさんは後退りする。
「いやー、やめてーー。こっちに来ないでちょうだい」
「おーっと、悪く思うんじゃーねーぞ。一番悪いのは、これを見ちまったお前なんだからよー。綺麗な姉ちゃんなら、助けてやっても良かったけど……こんなババアはどうでも良いからよー」
陽翔は、おばさんの左胸をナイフで突き刺した。恐らく、心臓を狙ったのだろう。とんでもなく、恐ろしい光景だ。
「フォーー ! 俺様って、ちょーイケてるぜーー。キラーンッ !」
地面へ転がったおばさんの遺体を担ぎ、陽翔は満足そうにどこかへ去っていった。あの遺体を、どこへ運ぶかつもりなのだろう。
イナズマ組には、何か隠したい秘密があるのかもしれないな。
優は永戸の行手を遮り、彼を押さえつけた。
「なあ、永戸……もう、暴れるな」
「ちょっとー、邪魔をしないでくれるかい ? そんなに、死にたいなら良いよ ? 僕が殺してあげても……」
今のって、永戸の声か ? 声のトーンが上がり、どこか気狂った口調に聞こえるが……。
永戸は優の腕を素早く振り解くと、拳を後ろへ突き出し、彼を飛ばした。
「あーーーーーーーーーーっ !」
痛々しい叫び声を上げ、優が腹部を抑える。
「そんなに弱いのに、たった一人で僕を止められる訳がないだろ ? フッハハハハハハーー」
僕らに背を向けたまま、永戸は気味の悪い笑い声を上げる。やはり、あれはいつもの永戸の声じゃない……と言うか、何もかもが違う。彼はまるで、別人の様だ。
血の雫がポタリポタリと落ち、アスファルトに染み込む。
優は、背後から永戸に攻撃を仕掛けるが、何度も何度も飛ばされ、頭から血を流してしまっていた。
「……なあ、どうしてこっちを向かないんだよ」
「エッヘヘ……僕は凄いだろ ? 君に背を向けながらでも、余裕で勝てるんだからさ」
永戸の発した言葉は、優のした質問の答えにはなっていなかった。
「……それは、確かにすげーよ。俺はまだ、お前に一撃も与えられていねーからなー。だけど、そうやって油断してたら、本気の奴には勝てねーぜ」
「へー、君はまだ僕の凄さを理解していないみたいだね。だったら、教えてあげるよ……絶望的な痛みでね。フッハハ……」
優にそう返事をすると、永戸はやっとこちらへ振り返った。
しかし、その姿は別人でしかなかった。悪魔の様に不気味な顔に、気狂った表情。狂気じみた姿で、赤色の眼光をギラギラさせている。奴は永戸ではなく、レッドアイだった。
つまり、レッドアイの正体は永戸だった……と言う訳か ? それなら、イナズマ組はそれを知っていたのだろうか。頭の整理が追いつかない。
だが、レッドアイに一つしか目が無いように見えた訳が分かった。それは、片目を隠していたからだったのか。
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