とある夜に、僕はこんな夢を見た。
僕は気づけば、どこか見覚えのある洋風な広々とした部屋の中に居た。そして、ショートカットの娘と向き合い、座り心地の良いソファーに腰を掛けている。そう、僕は魔女の屋敷の中に居るのだ。
「飛華流さん、お久しぶりです。今、私は貴方の夢の中にお邪魔しています。早速なのですが、呪いの代金を請求させて頂きたいと思います」
「え、あの……有料だと知らずに依頼してしまったんですけど……幾らになりますかね」
「……すみません。私の説明不足でしたね。人一人呪うと、十万円かかります。貴方の場合、三人の方を呪っているので、合計で三十万円になります」
エミナーのその言葉に、僕は自分の耳を疑った。おい、嘘だろ。そんな大金、払える訳がないじゃないか。そういう大切な事は、先に教えてくれよ !
戸惑う僕に、エミナーは続けてこんな質問をする。
「飛華流さんの財布から頂こうかと思いましたが、お金が不足しているので……ご両親の銀行口座からのお支払いでも、宜しいでしょうか ?」
「い、いや……それはちょっと。あの、別の方法は無いですか ?」
そんな大金が無くなれば、パパとママが大騒ぎするに違いないと考え、僕はそれを拒否した。面倒な事になるだろうから、絶対にそれだけは避けたかった。
「私も、これを職として生きていますので、代金を頂かない訳にはいきませんけど……どうしましょうか……困りましたね」
エミナーは困った顔で、僕を見つめた。
「あの……呪いの取り消しは出来ますか ?」
思い切って僕は、エミナーにそう聞いてみる。僕の恨みはあいつらが呪われても、消える事はないだろう。それでも、呪いたかった。
だが、家族に迷惑がかかるなら、やめないとな。これは、僕だけの問題なのだから……。
「呪いは既に発動してしまっているので、取り消す事は出来ません」
しばらくの沈黙の後、エミナーが再び口を開いた。
「……でしたら、私のお仕事を手伝って頂けませんか ?」
「え ? でも、僕は魔法を使えませんよ ?」
「はい、それでも大丈夫なお仕事が、一つだけあります。それは、夢創作員です」
「……夢創作員 ? それは、何ですか ?」
僕が小さく首を傾げると、エミナーは丁寧に教えてくれる。
「お客様が睡眠時にご覧になりたい夢を、提供するお仕事です。まずは、お客様の希望に沿ったシナリオを考えます。次に、仕上がった夢をお客様の元へ届けます。これが、主な仕事内容です。……どうでしょう。やってみますか ?」
僕はエミナーに直ぐには答えられず、黙り込んでしまった。どうしよう。僕はまだ中学生だし、バイトなんてした事がない。
だけど、他に方法は無さそうだ。それに、僕に向いてそうな作業だから、思い切ってチャレンジしてみようかな。
勇気を出し、僕はエミナーに尋ねる。
「あの……やってみようと思います。どうやってやるんですか ?」
「このお仕事に、ペンや紙は必要ございません。必要なのは、発想力です。……飛華流さんは、趣味で漫画を描いてますね ?」
「あ、はい……。どうしてそれを、知っているんですか ?」
「……それは、飛華流さんのお部屋を見れば分かります。私は魔法が使えますが、物語を作る才能はありません。なので、この作業にかなり苦戦していました。ですから、飛華流さんにお手伝いをして頂けると、とても助かると思います。ありがとうございます」
エミナーは、優しい笑顔を僕に見せた。いやいや、いつ俺の部屋を覗いたんだよっ ! プライバシーもクソもないな。それに、そんなに期待されるとプレッシャーになるからやめてほしい。
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