「ねえ、茂……私、出かけて来るから、この子を宜しくね」
幼い男の子を連れた、ツンとした美人な女性が洞窟から現れた。その女性に子供を渡され、菊谷は彼女の背を見送った。
「ああ、任せろ ! 気をつけてな」
「皆、こんにちは」
菊谷と手を繋いでいた子供が、こちらへ近寄ってきて僕らに頭を下げる。礼儀正しく挨拶をする男の子は、菊谷と同じ赤毛の髪をしていた。良い子そうな顔をしているのに、可哀想だな。絶対に訳も分からず、親に染められたのだろう。
「よー、仁。元気にしてるかー ? 茂お父さんは、優しいですかー ?」
優は男の子の頭を撫で、とても可愛がっていた。この子の名前は、仁らしい。
「うん、優しいよ。……それに、優お兄ちゃんもね」
「お前はまだ五歳なのに、本当にしっかりしてるよなー。よしよし、良い子だ」
話を聞くに、菊谷とさっきの女性がこの子供の親という訳か。家族で洞窟暮らしって、相当いかれてるな。
菊谷と別れた後、僕らはアジトでゲームをして過ごした。ワンダはその様子を、いつもの様に黙って見ている。
僕らはそれぞれ、ゲーム内でのニックネームがある。永戸はエイン。優はタカチョ。僕はヒカルンだ。
ゲームバトルで、僕は優に勝った。特別、嬉しくもない。それが普通だ。
「……お前、ゲーム強いんだな」
永戸に続き、優が悔しそうに声を上げる。
「飛華流……参ったよ。くっそー、タカチョ戦士の敗北だー」
次は永戸と通信しようと思っていたのだが、彼は不満げに言った。
「ち、赤ランプが点いた……。そろそろ、充電しに行かねーとな」
「アッハハ……そうだな。また後で、どこかの家のコンセント借りようぜー」
顔を曇らせる永戸に充電器を渡し、優は笑いかけた。そうかここには、電気が通っていない。だから、充電ができないのか。面倒だな。
金の無い彼らの事だから、このゲーム機だって盗んで来たに違いない。何もないって、不幸だな。
ゲーム機の電源が切れるまで、僕は優と対戦した。その間、永戸は暇そうに待っていた。
この前にも食べた魚味のスープを頂き、日が暮れるまで彼らと遊んだ。その間、隙間から吹き込む冷風が、ずっと僕の体を冷やしていた。ここは、すごく寒い空間だ。
暗がりな部屋の中、壁に吊るされた切れかけのランプに照らされ、僕はワンダと共に腰をあげる。
「きょ、今日は、楽しかったです……俺、そろそろ帰りますね」
「優……俺、今から菜月と会うから、こいつらを家まで送ってやれ」
「オッケー ! 彼女とのデート、楽しめよ」
優は、元気よく永戸に親指を立てる。そして、悪戯っ子の様な笑みを浮かべて彼は永戸をいじった。
すると、永戸は顔を真っ赤にして足早に去っていく。
「馬鹿が……別に、そんなんじゃねーし」
「よし、飛華流……それじゃあ行くか !」
優は軽々と僕を背負って、動き出した。その後をちょこちょこと、ワンダがついてくる。自宅まで、ワンダは自力で帰ったのだった。
こうして、一日を終えたのだが……。
そう言えば、僕は結局何の為にアジトへ行ったんだ ? イナズマ組のメンバーにされるのかと思っていたけど、特に何もされなかったし……。
しかし、それで良かった。イナズマ組になんか、入りたくないからな。ヤンキーになるなんて、僕には無理だ。
翌日の昼頃……。
ドンドンドンッ !
永戸と優は窓をノックし、またベランダから現れた。
「飛華流ー、遊ぼうぜーー !」
優は、こちらに笑顔で手を振る。正直、とても迷惑だ。うざったくて仕方がない。
仕方なく窓を開け、ゲーム機を手提げ鞄に入れ、僕はワンダを連れて彼らとアジトへ向かう。そして、彼らとゲームの通信をした。
こんな日々が、何度も続いた。
これが、僕の冬休みの過ごし方となっていく。
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