MARVELOUS ACCIDENT 未知の始まり 【訂正前】

闇で歪んだ世界
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27

公開日時: 2021年9月11日(土) 16:25
文字数:1,496



「ねえ、しげる……私、出かけて来るから、この子を宜しくね」

 

 幼い男の子を連れた、ツンとした美人な女性が洞窟から現れた。その女性に子供を渡され、菊谷は彼女の背を見送った。

「ああ、任せろ ! 気をつけてな」

 

「皆、こんにちは」

 菊谷と手を繋いでいた子供が、こちらへ近寄ってきて僕らに頭を下げる。礼儀正しく挨拶をする男の子は、菊谷と同じ赤毛の髪をしていた。良い子そうな顔をしているのに、可哀想だな。絶対に訳も分からず、親に染められたのだろう。


「よー、じん。元気にしてるかー ? 茂お父さんは、優しいですかー ?」

 優は男の子の頭を撫で、とても可愛がっていた。この子の名前は、仁らしい。

「うん、優しいよ。……それに、優お兄ちゃんもね」

「お前はまだ五歳なのに、本当にしっかりしてるよなー。よしよし、良い子だ」

 話を聞くに、菊谷とさっきの女性がこの子供の親という訳か。家族で洞窟暮らしって、相当いかれてるな。



菊谷と別れた後、僕らはアジトでゲームをして過ごした。ワンダはその様子を、いつもの様に黙って見ている。

 僕らはそれぞれ、ゲーム内でのニックネームがある。永戸はエイン。優はタカチョ。僕はヒカルンだ。

 ゲームバトルで、僕は優に勝った。特別、嬉しくもない。それが普通だ。

「……お前、ゲーム強いんだな」

 永戸に続き、優が悔しそうに声を上げる。

「飛華流……参ったよ。くっそー、タカチョ戦士の敗北だー」

 

次は永戸と通信しようと思っていたのだが、彼は不満げに言った。

「ち、赤ランプが点いた……。そろそろ、充電しに行かねーとな」

「アッハハ……そうだな。また後で、どこかの家のコンセント借りようぜー」

 顔を曇らせる永戸に充電器を渡し、優は笑いかけた。そうかここには、電気が通っていない。だから、充電ができないのか。面倒だな。

 金の無い彼らの事だから、このゲーム機だって盗んで来たに違いない。何もないって、不幸だな。


ゲーム機の電源が切れるまで、僕は優と対戦した。その間、永戸は暇そうに待っていた。

 この前にも食べた魚味のスープを頂き、日が暮れるまで彼らと遊んだ。その間、隙間から吹き込む冷風が、ずっと僕の体を冷やしていた。ここは、すごく寒い空間だ。


 暗がりな部屋の中、壁に吊るされた切れかけのランプに照らされ、僕はワンダと共に腰をあげる。

「きょ、今日は、楽しかったです……俺、そろそろ帰りますね」

「優……俺、今から菜月と会うから、こいつらを家まで送ってやれ」

「オッケー ! 彼女とのデート、楽しめよ」

 優は、元気よく永戸に親指を立てる。そして、悪戯っ子の様な笑みを浮かべて彼は永戸をいじった。

 すると、永戸は顔を真っ赤にして足早に去っていく。

「馬鹿が……別に、そんなんじゃねーし」

「よし、飛華流……それじゃあ行くか !」

 優は軽々と僕を背負って、動き出した。その後をちょこちょこと、ワンダがついてくる。自宅まで、ワンダは自力で帰ったのだった。


 こうして、一日を終えたのだが……。


  そう言えば、僕は結局何の為にアジトへ行ったんだ ? イナズマ組のメンバーにされるのかと思っていたけど、特に何もされなかったし……。

 しかし、それで良かった。イナズマ組になんか、入りたくないからな。ヤンキーになるなんて、僕には無理だ。



翌日の昼頃……。



 ドンドンドンッ !



 永戸と優は窓をノックし、またベランダから現れた。

「飛華流ー、遊ぼうぜーー !」

 優は、こちらに笑顔で手を振る。正直、とても迷惑だ。うざったくて仕方がない。

 仕方なく窓を開け、ゲーム機を手提げ鞄に入れ、僕はワンダを連れて彼らとアジトへ向かう。そして、彼らとゲームの通信をした。

 

 こんな日々が、何度も続いた。

 これが、僕の冬休みの過ごし方となっていく。


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