「コロン……僕は、ワンナを連れ戻してくるから、この橋の下に隠れて待っていてくれる ?」
「……分かったボン。十分、気をつけてだボン」
「よしよし……良い子だ。急いで戻るから、待ってて」
砂利道で怠そうに寝そべるコロンをそっと撫で、僕は走り出した。河原を駆け抜けて行くワンナの後を、僕は必死に追う。
「ワンナー、待ってよー。戻って来て……そっちは危険だー」
僕の呼びかけに、ワンナは応答しない。
足が速いワンナに追いつけず、彼女は僕の視界から消えた。
町のあちこちで、銃声と悲鳴が混ざり合っている。こんな所に居たら、命を落とすのも時間の問題だ。早く、ワンナの元へ行かなければ……。
「よし、撃ち殺せー」
積み木を重ねて作った感じの、おもちゃの様な家が見えてくる。そこで、フルフェイスマスクを被った二人組が、我が国民に銃を向けていた。
「キャーー、お願い……やめてーー !」
あの人達は気の毒だけど、射殺されてしまうんだろな……そう思った、その時だった。
「やーめーろーー !」
なんと、ワンナが現れて謎の集団の前に立ち、両手を大きく広げた。後ろで震える二人の親子を、ワンナは守ろうとしているのだ。
「ワンナ姫様……来て下さったのですね」
「……ああ、お前らは今のうちに避難しな」
「まあ……ワンナ姫様、何とお礼を言ったら良いのやら……ありがとうございます」
若い女性はワンナに頭を下げ、子供を抱えて逃げ出す。
「くくっ……逃がすかよ」
しかし、親子は敵にロックオンされてしまった。
パパパパパンッ !
乾いた発砲音が聞こえた直後、親子は体から血の花火を噴き出し、その場に倒れた。そんな様を目にし、ワンナは激怒する。
「……き、貴様ーーっ ! よくも……よくも、殺《や》ってくれたなーーっ ! 絶対に許さない。うあーーっ !」
拳を振り上げ、ワンナは二人の敵に殴りかかる。
「ん、何だ ? こいつも、撃ち殺せよ……」
「……おう、分かってる」
パパパパパンッ !
再び一人が銃を乱射し、ワンナは膝から崩れ落ちてしまう。おい、嘘だろ ? ワンナが撃たれた。直ぐに、助けに行かなければ……。
けれど、恐怖で体が動かない。駄目だ。僕には、ワンナを守りきれない。
「くっそー。守れなかった……この私が、目の前に居たのにっ ! また、奪われてしまった……この野郎ーー」
地面に何度も頭突きをし、ワンナは泣き叫ぶ。
こんな状況でも、自分より国民の事を考えられるなんて……どんな、メンタルしてるんだよ。これでは、王子である僕より、ワンナの方が王らしいじゃないか。
「おい、こいつ……ほとんど躱《かわ》しやがったぞ。膝にしか当たってねーじゃねーか ! もう一度、撃てー」
敵が引き金を引こうとした、その時……っ !
「あーーワンナーー !」
青髪の幼い少年がどこからか現れ、ワンナの元へ駆け寄った。彼は、ワンナの恋人のロズ。婚約者である僕がいながら、ワンナはこいつに心を奪われている。
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