MARVELOUS ACCIDENT 未知の始まり 【訂正前】

闇で歪んだ世界
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公開日時: 2021年10月13日(水) 07:00
文字数:1,841


「菊谷、待て。こいつの話を聞いてやれ」

僕がガクガクと震えていると、永戸が菊谷を呼び止めた。気狂いが終わり、いつもの彼に戻っている。僕の事を、庇ってくれるつもりなのだろうか。

「おお、永戸……戻ったみたいで良かった。……お前がそう言うなら、話だけでも聞いてやろうか」

「……だってよ。早く説明しろ。お前は、どっちの味方なんだ」

僕は永戸にそう問われ、声を振り絞った。

「み、皆さん……本当にすみませんでした。実は僕、イナズマ組とスマイル団に……」


「フッ、ちょっとちょっとー。僕の事、忘れてなーいー ?」


話の途中で、狂った不気味な声に邪魔された。振り返るが、誰も居ない。頭上に目を向けると、そこにはマントの様な物で身を纏った、童顔の少年が空中に浮いていた。彼は黒く尖った角と尻尾を生やしていて、まるで悪魔の様だった。身長や見た目からして、永戸と同い年くらいに見える。

秀と菊谷に怯えていて、こいつの存在をすっかり忘れていた。まさか、影がこんな人間の姿になるとは、想像もつかなかったな。


「やあ、パパ……初めまして。僕の事好き ?」

悪魔の様な少年は、ギラギラと光る赤い瞳で永戸を見つめ、彼の元へ飛んでいく。そして、少年は牙を出して嬉しそうに笑った。その時だけは、彼は恐ろしい悪魔の様に見えなかった。子供が親に向ける、甘えた様な純粋な表情をしていたんだ。

 よろよろと立ち上がると、永戸は少年との距離をとった。

「誰だ……お前。何言ってんだよ。俺は、お前の父親なんかじゃねーし」

「パパ……何言ってるのー ? 僕はずっと、パパと共に生きてきたんだよ。パパの体内でね」

少年の言葉を耳にし、永戸は舌打ちをした。そんな彼は、どんどん顔を曇らせていく。

「ちっ、お前か……お前が、俺を今まで支配してきたんだな」

「へー、パパって酷い人だね。勝手に僕を生み出しておいて、そんな言い方をするなんてー。フッハハハハハハハー」

「……はっ ? 俺がお前を生み出しただと。そんな覚えは全くねーし。何回も言わせるな。……俺に、子供なんていねーから」

永戸は、この少年を全く知らない様だ。それなら、少年は何を言っているのだろう。

永戸は男だから、子供を産むなんてあり得ないしな……。それに、年の差からしても考えられない。


「僕はね、悪魔なんだよ。だから、人間の赤ん坊の様に生まれた訳じゃないのさー。パパの果てしない黒い感情が異常なほどに積み重なって、僕という存在が誕生したって訳さー。分かるかーい ?」

少年は、嘘みたいな話をするな。強い闇が固まると、悪魔をも生み出してしまうのか。……という事は、永戸は過去に何かあったんだろうな。


永戸は、悪魔を睨みつけた。

「嘘つくな。そんな事、あり得ないじゃねーか」

「あり得ない ? そう、あり得ない事だよ。これは、異常事態さー。だって、パパの心の闇が深すぎるあまり、僕という一つの生き物を作り出したんだからねー。本当、おかしな話だよ。フッハハハハハハハハハーー」

愉快にそう語る、悪魔の目は笑っていなかった。その、無機質な笑顔の裏から、猛烈な怒りを感じるような……僕の気のせいだろうか。


「意味分かんねーし。俺は、お前のせいで犯罪者扱いされてんだよ。何で俺が、お前の罪を押し付けられないといけねーんだ」

永戸は声を荒げ、悪魔に襲いかかる。彼の攻撃を避けようともせず、悪魔は堂々と構えていた。

すると、悪魔の体を永戸の拳がすり抜けた。


「ちっ、どうなってんだ……何で、当たらねーんだよ」

永戸が何度も攻撃をしても、悪魔の体を通り抜けてしまう。悪魔は、涼しい顔をしていた。

「フフッ、無駄だよ無駄だ。僕は肉体を持たないんだよー。つまり、透明なのさ。だーかーらー、僕も自分の肉体が欲しいんだよー。そして、僕もパパや君達の様に人間として生きるのさー」

「……それなら、俺に取り憑いてないで勝手にそうしろよ」

「フフッ、安心しなよ。パパの体を完全に手にする事は、残念ながら僕には出来ないからねー。僕が人間の体を完全に自分の物にするなら、死体じゃないと不可能なのさ。一つの体に一つの魂だけでないと、まともに生きられないからねー。だから、僕の夢を叶えるためには、人を殺す必要があるんだー。でも、僕はパパの命を奪えない。パパが死ねば、僕も死ぬ事になるからねー」

悪魔の言っている事には、あまりにも現実味がない。まともに考えたら、頭がおかしくなりそうだ。

永戸を殺せば悪魔も消え、この様な事件は二度と起こらなくなるって事だよな。正直、世の中の為にはそれが良いと思う。

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