自分の方へ接近してくる二人の男を見て、エモは悪い笑みを浮かべる。
「ねえ、パパ。僕はね、パパと一緒じゃなくても強いんだよ。今から、あの二人と遊んで証明するから、見ててねー」
エモは赤く恐ろしい瞳を僕に向け、こちらへゆらゆらと飛んでくる。おい、どうして僕の方へやって来るんだよ。こいつが狙っているのは、秀と菊谷だろ ?
「こんな弱い奴の体を使ったって、僕は好きに暴れられるのさー」
エモの発した言葉で、僕は自分が何をされるのかを察した。こいつは、僕の体を乗っ取るつもりだ。
永戸の様に気狂ったら、僕の意識はどこへ行くのだろう。想像しただけでも、恐ろしい。
「あー、お願いだからやめてよ。こ、怖いよ……助けてーー」
僕は思わず、泣き叫んだ。永戸、我が子の暴走を止めてくれ。
すると、エモは僕の体にスッと入っていく。まだ、僕の意識は続いているし、変化は何もない。体内に悪魔が居るのに、不思議といつも通りだ。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ……。
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ……。
消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ……。
脳内にエモのそんな声が、繰り返し聞こえてくる。なんだろう……なんだか、人を殺したくなってきたぞ。誰でも良いから、殺したい。
「ウッハッハッハー。殺せ殺せ、壊せ壊せ、消せ消せーー。…………ウッ、ウウウウッ……ウアーーーーッ !」
僕は気分が上がり、脳内に聞こえる言葉を口にする。その直後、体の底から猛烈な力がみなぎってきた。それを制御するのが苦しくなり、僕はその場に踞る。
息が上手く出来ない。僕は、必死に体に力を入れた。こうしていないと、この果てしないエネルギーに、身を破壊されそうだ。そんな感覚が数秒続き、やっとおさまった。
「飛華流……目が赤い。大丈夫か ? おい、エモ……飛華流から出て行け」
「永戸さん……殺す」
僕は永戸を目にし、彼の元へ走っていく。以前とは比べ物にならないくらい、素早く動く事が出来る。まるで、風になった気分だ。これなら、永戸を壊せる。ぐちゃぐちゃにできるっ ! 僕は、笑みが止まらない。
「飛華流君、パパを狙ったら駄目だよ。パパが死ねば、僕も死ぬ。あの二人を殺せ」
脳内から、エモが僕に話しかけてきた。でも、僕はそのまま永戸に拳を振り上げる。今は、この男を殺したいんだ !
「エモ、いい加減にしろ。これ以上、飛華流の体で暴れるな」
頬に電撃が走った様な、痺れを感じた。永戸に殴られたんだ。僕のパンチを喰らい、永戸も頬がヒリヒリしているだろう。
凄い、凄いぞ。僕は、永戸とまともに戦えている。永戸に殴られても、少し痛むだけだ。それも、体中から溢れ出すパワーのおかげだろう。
楽しいから、もっと永戸を傷つけたい。お前の血を、見せてくれよ。僕は鋭く尖った長い爪で、永戸の腹を切り裂いた。
すると、大きな傷口から、赤々とした血が飛び散る。永戸は、苦しそうに腹を抑えた。よし、もっとだ ! もっと、楽しませてくれよ。僕は何度も、彼の体に傷を刻む。
殺せ壊せ消せ、脳内でその三つの言葉が混ざり合う。今の僕なら、永戸をバラバラにできるはずだ。こいつを殺したら、次は誰で遊ぼうかなー。
「ぐっ、出て行かねーなら、叩き出す」
身体中から血を吹き出しながら、永戸は僕に急接近する。そして、僕の頭に自分の頭を勢いよく叩き込んだ。これは、さすがに痛い。頭が割れそうだ。くっそ、ヘッドバットを喰らってしまった。
こちらからも攻撃しようとすると、永戸は絶え間なく、僕の体中を殴り出した。体が粉々に砕けてしまいそうだ。これでは、僕から技を仕掛けられない。
「パパ以外の体に入るのは初めてだけど、こんなにも馴染むまでに時間がかかるとは思わなかったよー。ほら、そろそろ交代しよう。楽しいのは、これからだよー」
エモの囁く声が、脳内に響いた。まだ、僕は交代したくない。僕はもっと、血を見たいんだ。
視界が一気に暗くなり、僕は闇に包まれる。周囲の音が一切聞こえなくなり、意識が遠のいていった。
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